親御さんの介護が始まると、ケアマネジャーや施設のスタッフから、驚くほどたくさんのことを質問されませんか?
「趣味は何でしたか?」
「お風呂は夜派ですか、朝派ですか?」
「コーヒーには砂糖を入れますか?」
家族としては、「そんな細かいことまで必要なの?」「早くサービスを使って楽になりたいのに」と、面倒に感じてしまうこともあるでしょう。
そして、定期的に送られてくる分厚い「介護計画書(ケアプラン)」を見て、読むのも億劫になったり…。
でも実は、この「しつこい質問」と「面倒な計画書」こそが、親御さんが親御さんらしく生きるために、絶対に欠かせない「オーダーメイドの設計図」なのです。
今回は、介護のプロたちが頭の中で行っている「介護過程」という思考プロセスと、そこに協力する意義についてお話しします。
介護は「既製品」ではなく「オーダーメイド」で作るもの
介護サービスは、誰にでも同じことをすればいいわけではありません。
Aさんには心地よいケアでも、Bさんにとっては不快かもしれません。
そこでプロたちは、「介護過程」という手順を踏んで、一人ひとりに合ったケアを作り上げていきます。
- 情報収集(アセスメント): ご本人や家族から、生活歴や好み、身体状況を聞き出す。
- 計画(プランニング): 「この人には何が必要か」を考え、目標と方法を決める。
- 実施: 実際にケアを行う。
- 評価: うまくいったか振り返り、修正する。
この流れは、いわば「オーダーメイドのスーツ」を作るようなものです。
最初の「採寸(質問)」が適当だと、どんなに良い生地を使っても、体に合わない窮屈な服(ケア)が出来上がってしまいます。
プロが細かく質問するのは、親御さんにぴったりフィットする、世界に一つだけのケアを提供したいからなのです。
目指しているのは「お世話」ではなく「自立」
なぜ、そこまで手間をかけるのでしょうか?
それは、介護の目的が「ただのお世話(身の回りのことをやってあげる)」ではなく、「自立支援(その人らしく生きる手助け)」だからです。
「トイレに行けないからオムツを替える」
これだけなら、誰にでも同じ対応で済みます。
しかし、「本当はトイレに行きたい」という願いを叶えるためには、「なぜ行けないのか」「どうすれば行けるようになるか」を個別に分析し、計画を立てる必要があります。
その人だけの「望む暮らし」を実現するために、介護過程というプロセスは不可欠なのです。
良い設計図を作るために、家族ができること
ケアマネジャーやスタッフは介護のプロですが、親御さんの人生のプロではありません。
親御さんの「人となり」を一番知っているのは、ご家族であるあなたです。
- 「昔、こんな仕事をしていた」
- 「几帳面な性格で、汚いのが許せない」
- 「朝はパンよりご飯派だ」
こうした何気ない情報が、ケアの質を劇的に高めるヒントになります。
聞かれたことに答えるだけでなく、「母はこういう人なんです」と積極的に伝えてみてください。
まとめ
たくさんの質問や書類は、形式的なものではありません。
「あなたの親御さんを、その他大勢の高齢者としてではなく、たった一人の個人として大切にしますよ」という、プロからのメッセージです。
「面倒だな」と思わず、「良いスーツを仕立ててもらうんだ」という気持ちで、採寸(面談)に協力してあげてくださいね。
「介護過程の目的=個別ケア」。これがプロの思考回路です。
なぜ面倒な計画書を作るのか。それは利用者を十把一絡げにせず、「その人だけの自立」を支援するためです。
介護福祉士国家試験でも問われるこの基本概念。家族としての実感を込めて、実際の試験問題を見てみませんか?
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