毎年6月頃になると、お住まいの自治体から「介護保険料決定通知書」が届きます。
開封して中身を確認したとき、ふとこんな疑問を持ったことはありませんか?
「どうして役所は、私の年金の受給額を正確に知っているんだろう?」
「銀行の口座情報や収入まで把握されている気がするけれど、大丈夫なの?」
自分の懐事情を他人に知られるのは、あまり気持ちの良いものではありませんよね。プライバシーの侵害ではないかと不安になる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実はこれ、法律できちんと認められた市町村の「権限」によるものなのです。
今回は、私たちが安心して介護保険制度を利用するために、役所がどのような権限を持って「お金の管理」をしているのか、その裏側を少し覗いてみましょう。
市町村は介護保険の「現場監督」
介護保険制度において、市町村は「保険者」と呼ばれ、いわば制度の運営責任者であり現場監督のような立場にあります。
この制度を維持するためには、皆さんから「保険料」を公平に集め、必要な人に「サービス」として還元しなければなりません。
もし、申告漏れなどで保険料を正しく払わない人がいたら、真面目に払っている人が損をしてしまいますよね。
そのような不公平を防ぐために、市町村には「個人の収入や年金情報を調査する強力な権限」が与えられているのです。
1. 「年金」の情報を照会する権利
65歳以上の方の介護保険料は、原則として年金から天引き(特別徴収)されます。
これをスムーズに行うために、市町村は日本年金機構などの「年金を管理している組織」に対して、「この人にはいくら支給されていますか?」と資料の提供を求めることができます。
私たちがわざわざ役所に年金証書を持って行かなくても、自動的に手続きが進むのはこのためです。
2. 「収入」や「資産」を調査する権利
介護保険料は、前年の所得(収入)によって段階的に金額が決まります。
正しい金額を算出するために、市町村は必要に応じて、銀行や勤務先、あるいはご本人に対して、収入や資産状況の調査を行うことができます。
「隠し財産がないか監視している」というよりは、「負担能力に応じた適正な保険料を決めるため」に必要な手続きなのです。
「県」と「市」の役割分担を知っておこう
このように、お金(保険料)に関する調査権限は、私たちに一番身近な「市町村」が持っています。
一方で、同じ介護保険でも「都道府県」が担当している業務もあり、ここを混同してしまうと、いざという時の問い合わせ先を間違えてしまうことがあります。
知っておくと便利な「役割分担」を整理しました。
都道府県が担当していること(市町村ではない)
- ケアマネジャーの資格管理: 「担当のケアマネジャーが悪質な不正をしている!」といった場合の資格取り消し(登録消除)などは、都道府県の管轄です。
- 介護サービス情報の公表: インターネットで検索できる「介護サービス情報公表システム」の運営や、事業所への調査は都道府県が行っています。
- 不服申し立ての審査: 「要介護認定の結果に納得がいかない」といった場合の審査請求先も、市町村ではなく都道府県に設置された第三者機関です。
通知書は「正しく調査された結果」
役所が私たちの個人情報を詳しく把握しているのは、少し怖い気もしますが、それは「公平な負担」と「安定した制度運営」を守るための仕組みです。
次に「介護保険料決定通知書」が届いたら、ただ金額を見るだけでなく、「今年も正しく収入状況が反映されているかな?」という視点でチェックしてみてください。
もし、実際の収入と大きく異なる記載があった場合は、そのままにせず、すぐにお住まいの役所の窓口へ問い合わせましょう。調査権限があるとはいえ、事務的なミスがゼロとは限りません。
制度の仕組みを知ることは、自分自身のお金を守ることにもつながります。
