「お父さん、最近お味噌汁を飲むと必ず『コンコン』って咳き込むよね」
「寝ている時、たまに息が止まっているような気がして怖い」
親御さんのそんな変化に気づいた時、私たちは「年のせいで喉が弱くなったのかな?」と思いがちです。
もちろん喉の筋力低下も原因の一つですが、実はもっと根本的な原因が、脳の中にある「小さな司令塔」の老化にあることをご存知でしょうか?
私たちが意識しなくても「息をする」「心臓を動かす」「食べ物を飲み込む」ことができるのは、脳の一部が24時間休まず指令を出し続けてくれているからです。
今回は、この「生きるための自動運転システム」を担う重要器官と、その機能を助けて誤嚥(ごえん)を防ぐための知恵についてお話しします。
「息をする」と「飲み込む」は同じ場所が操っている
脳の後頭部、首の付け根あたりに「延髄(えんずい)」と呼ばれる場所があります。
ここは、生命維持に直結する機能をコントロールしている、まさに「命の座」とも言える場所です。
特筆すべきは、この延髄が「呼吸」と「嚥下(飲み込み)」の両方の司令塔であるという点です。
食事をする時、私たちは一瞬だけ呼吸を止め、気管に蓋をして、食道へ食べ物を送り込みます。
「はい、今息止めて!」「はい、今ごっくんして!」「はい、息再開!」
この神業のような連携プレーを、延髄は0.数秒という速さで指揮しています。
しかし、加齢によって延髄や神経の連携スピードが落ちると、この切り替えのタイミングがほんの少しズレてしまいます。
その結果、息を吸うタイミングで食べ物が入ってしまい、「むせ」や「誤嚥性肺炎」を引き起こしてしまうのです。
司令塔のミスをカバーする「生活の知恵」
脳の反射スピードが落ちてしまうのは、ある程度仕方のないことです。
大切なのは、司令塔がミスをしないように、周りが環境を整えてあげることです。
1. 飲み込みのタイミングを揃える「とろみ剤」
サラサラしたお茶や水は、喉を通過するスピードが速すぎて、延髄の指令が間に合わず気管に入りやすい(むせやすい)飲み物です。
よくむせる親御さんには、飲み物に薄く「とろみ剤」を入れてみましょう。
トロッとしてゆっくり流れることで、脳が「あ、飲み物が来たな」と反応する時間的な余裕が生まれ、誤嚥のリスクが激減します。
2. 肺活量を鍛えて誤嚥を防ぐ「呼吸トレーニング」
もし食べ物が気管に入ってしまっても、強く「ゴホン!」と咳き込んで吐き出す力があれば、肺炎は防げます。
この「吐き出す力(呼吸機能)」を鍛えるために、昔懐かしいおもちゃ「吹き戻し(ピロピロ)」や、医療用の「呼吸練習器(ブレスビルダーなど)」を使ってみましょう。
遊び感覚で肺活量を維持することが、延髄の機能を助けることにつながります。
3. 楽しみながら喉を鍛える「カラオケ」
一番楽しくて効果的なリハビリは、なんと「カラオケ」です。
歌うことは、「息を吸う・吐く・止める」の連続であり、最高の呼吸トレーニングになります。さらに、歌詞を追うことで脳も活性化します。
「久しぶりにカラオケ行かない?」と誘って、演歌を一曲熱唱してもらう。それが実は、最強の誤嚥予防になるのです。
まとめ
「むせる」というのは、「まだ生きようとする力」がある証拠でもあります。
延髄という脳の司令塔が必死に体を守ろうとしているサインです。
「またむせてる!」と怒るのではなく、「司令塔がちょっと疲れてるのかな? ゆっくり食べようか」と、温かく見守ってあげてください。
「呼吸と飲み込みの司令塔は同じ」。これを知っていると介護が変わります。
延髄が呼吸中枢であり、嚥下中枢でもあること。この人体の不思議とも言える構造は、介護福祉士の国家試験で必ず問われる「生命維持の基礎知識」です。
「だから食事中にむせやすいのか!」と合点がいったあなた。その理解力があれば、試験問題も難なくクリアできるはずです。
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