親御さんの介護度が重くなり、さらに痰の吸引や経管栄養といった「医療ケア」が必要になったとき、ご家族は住まいの選択に頭を悩ませることになります。
「特養(特別養護老人ホーム)は医療対応に限界があると言われた」
「病院に入院したけれど、病状が落ち着いたら退院を迫られている」
「でも、自宅で24時間介護するのはもう無理……」
そんな、「病院と施設の間」で行き場を失いそうな方のために、2018年に新しく作られた施設があることをご存知でしょうか。
それが「介護医療院(かいごいりょういん)」です。
今回は、医療が必要な親御さんの「終の棲家(ついのすみか)」の有力な選択肢となる、この新しい施設の特徴についてお話しします。
「介護医療院」は、長期療養できる生活の場
介護医療院を一言で表すと、「日常的な医学管理が必要な方のための、長期的な住まい」です。
これまでの施設と何が違うのでしょうか?
簡単に言うと、「病院のような手厚い医療」と、「老人ホームのような生活の場」の両方の機能をあわせ持っている点です。
医師や看護師が配置されているため、看取り(ターミナルケア)まで対応可能な医療体制がありながら、そこはあくまで「病院」ではなく「住まい」。
レクリエーションやリハビリもあり、季節の行事を楽しんだりしながら、最期まで穏やかに暮らすことを目的としています。
「老健」や「特養」との違いは?
よく比較される他の施設との違いを整理してみましょう。
1. 老健(介護老人保健施設)との違い
老健は「リハビリをして自宅に帰るための中間施設」であり、基本的には3ヶ月〜半年程度で退所しなければなりません。
一方、介護医療院は「長期療養」を目的としているため、期間を気にせず長く住み続けることができます。ここが最大の違いです。
2. 特養(特別養護老人ホーム)との違い
特養も「終の棲家」ですが、医師の配置義務が少なく、夜間に看護師がいない施設も多いため、医療依存度が高くなると入所できない(または退所になる)場合があります。
介護医療院は医療体制が充実しているため、特養では対応が難しい重度の方でも受け入れが可能です。
どんな人が利用できる?
とても頼りになる施設ですが、誰でも入れるわけではありません。
利用できるのは、原則として「要介護1〜5」の認定を受けた方です。
「要支援1・2」の方は利用できません。
これは、介護医療院が「重度の要介護者」や「医療ニーズが高い方」を支えるために作られた施設だからです。
特に、
- 経管栄養(胃ろうなど)や喀痰吸引が必要
- ターミナルケア(看取り)を希望している
- 認知症があり、身体合併症も抱えている
こうした状況で、自宅や他の施設での生活が困難な方が主な対象となります。
「4人部屋」でもプライバシーは守られる
「医療院」という名前や、病院に併設されることが多いことから、「病院の大部屋みたいに、カーテン一枚で仕切られた部屋で寝かされるだけじゃないの?」と心配される方もいます。
しかし、介護医療院はあくまで「住まい」です。
4人部屋(多床室)であっても、家具やパーティションを使って仕切り、「個人のプライバシー」が守られる環境作りが義務付けられています。
殺風景な病室とは違い、自分のテリトリーが確保された空間で、尊厳を持って生活できるよう配慮されているのです。
まとめ:医療が必要でも「生活」を諦めない
親御さんに医療ケアが必要になると、どうしても「治療」が最優先になり、「生活の楽しみ」は二の次になってしまいがちです。
しかし、介護医療院は「医療」と「生活」の両立を目指す場所です。
もし、医療的な理由で施設の入所を断られたり、退院後の行き先に困ったりしているなら、地域包括支援センターや病院のソーシャルワーカーに「近くに介護医療院はありませんか?」と尋ねてみてください。
「安心して医療を受けながら、最期までその人らしく暮らす」。そんな選択肢があることを知っておくだけで、将来への不安が少し軽くなるはずです。
