「全部自分でやる」が正解とは限らない。親の「やりたい」を守るために知っておくべき、新しい「自立」のカタチ

「お父さん、手伝おうか?」
「いや、自分でやる。自分でやらないとダメになるから」

着替えや食事に時間がかかっても、頑なに人の手を借りようとしない親御さん。
その意欲は素晴らしいことですが、頑張りすぎてクタクタになり、その後ずっと寝込んでしまってはいないでしょうか?

「自分でできることは自分でする」
これは介護予防の鉄則ですが、時にそのこだわりが、人生の楽しみを奪ってしまうこともあります。

今回は、ある筋ジストロフィー患者さんの事例を通して、私たちが誤解しがちな「自立」の本当の意味についてお話しします。

目次

着替えで力尽きて、絵が描けなくなるなんて

事例に登場するDさんは、絵を描くことが大好きな男性です。
しかし、病気の進行で体が動かしにくくなり、着替えにとても時間がかかるようになってしまいました。

「自分のことは自分でやらなきゃ」
そう思って頑張って着替えていましたが、着替え終わる頃にはもうヘトヘト。
一番やりたかったはずの「絵を描く」気力も体力も残っていない……という悲しい状況に陥ってしまったのです。

これでは、何のために頑張って着替えたのか分かりませんよね。
「生活を維持すること(手段)」に必死で、「人生を楽しむこと(目的)」ができなくなってしまっては、本末転倒です。

『リハビリになるから』と、あえて手伝わずに見守ることが、かえって親御さんの意欲を奪っているかもしれません。家族が陥りやすい『スパルタの罠』について解説します。

「手伝ってもらうこと」は「負け」じゃない

そんなDさんに、ある介護スタッフがこう言いました。

「着替えは私たちに任せて、Dさんは好きな絵を描いたらどうですか?」

この言葉は、Dさんの心を軽くしました。
着替えをヘルパーに任せることで、短時間で準備が済み、余った体力と時間をすべて大好きな創作活動に注げるようになったのです。

身体的には「介助されている」状態になりましたが、精神的には「自分のやりたいことをやっている」という充実した状態を取り戻しました。
これこそが、本来あるべき「自立した生活」の姿なのです。

世界を変えた「自立の父」エド・ロバーツの言葉

この考え方を世界に広めたのが、アメリカのエド・ロバーツという人物です。
彼自身も重度の障害があり、人工呼吸器を使用していましたが、電動車椅子に乗って大学へ通い、障害者の権利運動を率いました。

彼はこう言っています。

「自立とは、身の回りのことをすべて自分ですることではない。自分の生活を自分で管理し、決定すること(自己決定)である」

もし「一人で服を着られること」だけが自立なら、重い障害を持つ人は一生自立できないことになってしまいます。
でも、そうではありません。
「誰に手伝ってもらうか」「手伝ってもらって何をするか」を自分で決めることができれば、それは立派な「自立」なのです。

『全部自分でやる』のではなく『道具の力を借りて実現する』。その具体的な成功例がこちらです。片麻痺があっても料理を楽しむための『秘密兵器』をご紹介します。

親御さんの「エネルギーの使い所」を一緒に考えよう

もし親御さんが「人の世話にはなりたくない」と意地を張って疲弊していたら、こう提案してみてください。

「お父さん、着替えはヘルパーさんに任せて体力を温存しようよ。その分、元気な顔で孫と遊んでくれた方が、みんな嬉しいな」

「できないこと」を数えるのではなく、「やりたいこと」のためにあえて人の手を借りる。
それは決して「甘え」ではなく、人生を経営するための「賢い選択」なのです。

まとめ

全部自分でできなくても、いいんです。
「手伝って」と言える勇気が、親御さんの「本当にやりたいこと」を守ります。

これからは「何でも自分で」ではなく、「大事なことのために、他は任せる」。
そんな新しい自立のスタイルを、家族で共有していきませんか?

人の手を借りることは、決して『甘え』でも『親不孝』でもありません。介護保険制度が保証する『頼る権利』について知り、もっと堂々とプロの力を借りてみませんか?

「自立とは自己決定である」。この名言、誰の言葉かご存知ですか?
障害者福祉の世界を変えた重要人物「エド・ロバーツ」。彼の思想は、現在の介護福祉士国家試験でも問われるほど、支援の根幹をなすものです。
「名前は知らなかったけど、考え方には共感できる!」というあなた。ぜひ試験問題で、その理念を確認してみてください。
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