入院していた親御さんの容体が落ち着き、医師から「そろそろ退院ですね」と告げられたとき。
「ああ、よかった」と安堵すると同時に、急激な不安に襲われることはありませんか?
「病院では看護師さんが全部やってくれたけど、家では誰がやるの?」
「足元がおぼつかないのに、自宅のトイレやお風呂は使えるの?」
病院という守られた環境から、段差のある自宅へ戻ることは、高齢者にとってもご家族にとっても大きなチャレンジです。
「退院してから考えよう」とのんびり構えていると、帰宅当日に「ベッドがない!」「トイレに行けない!」とパニックになってしまうことも……。
実は、こうした事態を防ぐために、「入院中からケアマネジャーを交えて準備を進める仕組み」があることをご存知でしょうか。
今回は、安心して自宅に戻るために家族が知っておくべき「退院支援」の活用法についてお話しします。
準備は「家に帰ってから」では遅すぎる
退院支援の鉄則は、「入院中から準備を始めること」です。
すでに担当のケアマネジャーがいる場合は、入院した時点で「〇〇病院に入院しました」と連絡を入れておきましょう。そうすることで、ケアマネジャーは病院と連携を取り始めます。
- 自宅のトイレに手すりをつける工事の手配
- 介護ベッドのレンタル予約
- 退院直後からヘルパーさんが来るようにシフト調整
これらはすべて、退院する日までに完了していなければなりません。
ケアマネジャーは、病院から「今の親御さんの身体状況」を聞き出し、それに合わせた環境を退院前に整えてくれる頼もしい存在です。
医師や看護師と話せる「退院前カンファレンス」
退院が近づくと、病院で「退院前カンファレンス(会議)」が開かれることがあります。
これは、病院の医師・看護師・リハビリ担当者と、在宅で支えるケアマネジャー・ヘルパーなどが一堂に会し、退院後の生活について話し合う場です。
「専門家だけの難しい会議でしょ?」と思って遠慮してしまうご家族も多いのですが、これは大きな間違いです。
この会議の主役は、ご本人とご家族です。
「家では夜間が心配です」
「薬の管理ができるか不安です」
こうした家族のリアルな不安を、病院と在宅のスタッフ全員で共有できる絶好のチャンスです。遠慮せずに参加し、疑問をぶつけてみてください。
ケアマネジャーは「医療」と「生活」の通訳
この会議の中で、ケアマネジャーは重要な「橋渡し役(通訳)」を務めます。
病院の先生は「病気を治すこと」のプロですが、「ご自宅の段差がどこにあるか」「家族が何時に帰宅するか」までは知りません。
一方で、在宅スタッフは「生活を支えること」のプロですが、専門的な医療用語や治療方針には詳しくありません。
そこでケアマネジャーが間に入り、
「先生のおっしゃる安静度は、家の生活で言うとトイレ移動くらいは大丈夫ですか?」
「ご家族はこう心配されていますが、医学的にはどうでしょうか?」
と、双方の視点をつないでくれるのです。
ただし、ケアマネジャーは医師ではありませんので、「この薬はやめたほうがいい」といった治療方針への口出しはしません。あくまで「生活を支える視点」での調整役だと理解しておきましょう。
退院後も病院との縁は切れない
無事に退院して生活が始まった後も、ケアマネジャーは「家での様子」を病院に報告(フィードバック)することがあります。
「リハビリのおかげで歩けるようになりました」
「少し食欲が落ちているようです」
こうした情報が病院に伝わることで、もし再入院が必要になった時や、次回の外来受診の際に、スムーズな対応につながります。
まとめ:早めの連絡が安心のカギ
親御さんの退院が決まりそうになったら、具体的な日程が出る前でも構いません。まずは担当のケアマネジャーに「そろそろ退院の話が出ています」と一本電話を入れてください。
その一本が、ドタバタの退院ではなく、準備万端で笑顔の「お帰りなさい」を迎えるためのスタートボタンになります。
