「足が悪くて庭に出られないから、ついでに植木に水をやってくれない?」
「かわいい猫の餌を買ってきてほしいな」
訪問ヘルパーさんにそんなお願いをして、「申し訳ありませんが、それはできません」と断られてしまった経験はありませんか?
「ついでなんだから、それくらいやってくれてもいいのに」
「融通が利かないなぁ」
そうモヤモヤしてしまうお気持ち、よく分かります。
でも実は、ヘルパーさんが断るのには、意地悪でも怠慢でもない、介護保険制度ならではの「鉄の掟」があるのです。
今回は、意外と知られていない「ヘルパーさんに頼めること・頼めないこと」の境界線と、その納得の理由についてお話しします。
ヘルパーは「本人の生活」しか支えられない
大前提として、介護保険の訪問介護は「税金と保険料で賄われている公的なサービス」です。
そのため、利用できる範囲は厳密に決まっています。
ルールはシンプルにこの2つです。
- 「利用者本人」に対する援助であること
- 「日常生活に必要不可欠」な援助であること
よくある「頼めないこと」リスト
以下のようなお願いは、残念ながら介護保険では対応できません。
- 家族のための家事: 家族分の食事作り、子供部屋の掃除、来客へのお茶出し。
- 日常的ではない家事: 大掃除、庭の草むしり、家具の移動、ワックスがけ。
- ペットや趣味に関すること: 犬の散歩、猫の餌やり、植木の水やり。
「植木の水やり」がダメな理由は、それが枯れても「利用者の生命や日常生活の維持には直結しない(趣味の範囲)」とみなされるからです。
ペットの世話も同様に、家族が行うべきこととされています。
『窓拭き』も、実はヘルパーさんにお願いできない家事の代表例です。他にもある『頼んではいけないこと』の境界線と、お互いに気持ちよく過ごすためのコツはこちらです。

「一緒に掃除」はOK?プロが目指す「自立支援」
一方で、こんなシーンは「OK(むしろ推奨)」とされています。
「利用者さんと一緒に、ほうきを持って掃除をする」
「えっ? ヘルパーさんが全部やってくれるんじゃないの?」と思うかもしれません。
しかし、介護保険の最大の目的は「自立支援」です。
何もかもやってあげて、親御さんが寝たきりになってしまっては本末転倒です。
「一人では難しいけれど、支えがあればできる」ことに関しては、ヘルパーさんはあえて「手伝う」というスタンスをとります。
「一緒に掃除をする」ことは、リハビリの一環であり、「自分でできた」という自信を取り戻してもらうための、プロの計算されたケアなのです。
どうしてもやってほしい時の「解決策」
「理屈はわかるけど、やっぱり庭の草むしりはしてほしいし、ペットの世話も困っている」
そんな時は、介護保険以外のサービス(インフォーマルサービス)を賢く使いましょう。
1. 「自費サービス(横出しサービス)」を利用する
多くの介護事業所では、介護保険外の「自費サービス」を用意しています。
1時間あたり数千円の料金はかかりますが、保険のルールに縛られず、草むしりでもペットの世話でも、大掃除でも頼むことができます。
「保険の時間」が終わった後に、そのまま「自費の時間」として延長してくれる事業所もあります。
2. 「シルバー人材センター」に依頼する
庭の手入れや障子の張り替えなどは、地域の「シルバー人材センター」に依頼するのがコスパも良くおすすめです。
専門的な技術を持った元気な高齢者が、安価で引き受けてくれます。
3. 民間の「家事代行サービス」
家族の食事作りや大掛かりな掃除は、民間の「家事代行」の得意分野です。
最近は「高齢者見守りプラン」がある代行業者も増えています。
『ヘルパーさんに直接断られて気まずい…』そんな時は、現場のリーダーである『サ責(サービス提供責任者)』に相談するのが正解です。要望を上手に伝えて、味方につける方法をご紹介します。

まとめ
ヘルパーさんは「家政婦さん」ではなく、「自立を支える専門職」です。
「できない」と言われたら、それは「意地悪」ではなく「ルールの壁」です。
「じゃあ、自費ならお願いできる?」
その一言で、解決できることはたくさんあります。公的な支援と民間のサービスを上手に使い分けて、快適な在宅生活を作っていきましょう。
ヘルパーさんが『一緒にやりましょう』と言うのは、意地悪ではなく『自立支援』のためです。介護における『本当の自立』とは何か、少し視点を変えて考えてみませんか?

「一緒に掃除をする」のが正解。その理由がわかりますか?
単に楽をさせるのではなく、残された能力を活かす「自立支援」こそが訪問介護の本質です。
「植木の水やり」がなぜNGで、「一緒に行う掃除」がなぜOKなのか。この線引きは、介護福祉士試験でも頻出の超重要ポイントです。クイズ感覚で確認してみませんか?
👉 【挑戦!】介護福祉士の過去問を解いてみる
