家では「膝が痛くて歩けない」「薬が多すぎて飲むのが辛い」と毎日のようにこぼしている親御さん。
ところが、いざ病院に行って医師の前に座ると……
「調子はどうですか?」
「おかげさまで、大丈夫です」
そんなふうに、急に「物分かりの良い患者さん」を演じてしまい、横で聞いていたあなたが「えっ!?」と絶句してしまった経験はありませんか?
そして帰りの車の中で「なんで痛いって言わなかったの!」と喧嘩になってしまうまでがセットかもしれません。
今回は、なぜ高齢者は専門家の前で本音を隠してしまうのか、そして家族がどのようにサポートすれば「言えない本音」を届けられるのかについてお話しします。
なぜ、親は「いい子」を演じてしまうのか?
私たちからすれば「痛いなら痛いと言えば治してもらえるのに」ともどかしく感じます。しかし、親御さんが口をつぐんでしまうのには、高齢者特有の切実な心理があります。
- 「先生に悪い」という遠慮: 忙しそうな医師やケアマネジャーの手を煩わせてはいけない、わがままを言って嫌われたくないという防衛本能。
- 説明する気力の低下: 自分の症状を言葉にして順序立てて説明すること自体が、加齢とともに億劫になっています。
- 権威への弱さ: 「先生にお任せするのが一番」という世代的な感覚も強く影響しています。
つまり、親御さんは「嘘をついている」のではなく、「周りに配慮して我慢している」のです。
家族は最強の「通訳」になれる
介護の世界には、「アドボカシー(権利擁護・代弁)」という重要な考え方があります。
少し難しい言葉ですが、要するに「うまく言葉にできない人の代わりに、その人の希望や権利を社会に伝えること」です。
これは介護のプロが学ぶ必須スキルですが、実は、親御さんの性格や「いつもの様子」を一番よく知っている家族こそ、世界で一番頼りになるアドボケイト(代弁者)になれる存在です。
家族が間に入ることで、医療や介護のサービスは「マニュアル通り」のものから、「その人に合ったオーダーメイド」のものへと変わります。遠慮しがちな親御さんの代わりに、あなたが「通訳」となって本音を届けてあげましょう。
「言えない」を解決する具体的なアクションとツール
では、具体的にどう動けばいいのでしょうか。精神論だけでなく、便利なツールやサービスを活用して賢くサポートする方法をご提案します。
1. 診察のお供に「介護記録ノート」
診察室でいきなり「何か質問は?」と聞かれても、親御さんも(そしてあなたも)パッと思い出せないことがあります。
日頃からカレンダーや専用のノートに、「いつ、どこが、どう痛かったか」「何に困っているか」を箇条書きでメモしておきましょう。
医師に見せる際は、親御さんの言葉として伝えるのがコツです。
「本人は遠慮していますが、家では『〇〇が辛い』と言っていました」と、メモを見ながら伝えれば、角も立たずスムーズです。市販の「通院記録ノート」やスマホのメモアプリを活用するのも良いでしょう。
2. 遠距離で付き添えない時は「通院同行サービス」
「親の通院に付き添いたいけれど、仕事があるし、遠方だから無理……」
そんな時は、介護保険外の「通院同行サービス」や「付き添い代行サービス」を利用するのも一つの手です。
プロのスタッフが病院へ同行し、診察内容を家族にレポートしてくれたり、あらかじめ家族から預かった質問を医師に伝えてくれたりします。
「自分が行けない罪悪感」を持つ必要はありません。こうしたプロの手を借りることも、立派な「代弁」の一つです。
3. 将来の希望を可視化する「エンディングノート」
医療のことだけでなく、「どこで暮らしたいか」「延命治療はどうしたいか」といった大きなテーマは、日常会話ではなかなか出てきません。
そこで役立つのが「エンディングノート」です。
「縁起でもない」と敬遠されがちですが、最近は「これからの人生をどう楽しむか」に焦点を当てた明るいデザインのものも増えています。
「もしもの時、お母さんの希望通りにするために書いておいてほしいな」とプレゼントしてみてはいかがでしょうか。書いてあれば、いざという時に家族が自信を持って親の意思を代弁できます。
まとめ
親御さんが高齢になればなるほど、社会に向けて発する「声」は小さくなっていきます。
そんな時、「あなたの気持ちは、私がちゃんと分かっているよ」と家族が側にいてくれることほど心強いことはありません。
すべてを背負う必要はありません。便利なサービスやツールも使いながら、親御さんの「小さな声」を拾うメガホンになってあげてください。
家族の「優しさ」は、実はプロの「技術」です。
あなたが日頃、親御さんのために「言いにくいことを代わりに伝えてあげる」その行動。実はこれ、介護福祉士の国家試験にも出る「アドボカシー」という高度な専門スキルなんです。
「私にも解けるかも?」と思ったら、ぜひ実際の試験問題で力試しをしてみてください。自分の行動に自信が持てるはずです!
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