医療ドラマや映画で、倒れた患者さんの目に医師がペンライトの光を当てて、左右に振るシーン。
皆さんも一度は見たことがあるのではないでしょうか?
緊迫した場面でよく描かれますが、医師があの瞬間、何を確認しているのか、詳しく知っている方は意外と少ないかもしれません。
「眩しくないのかな?」
「目を見れば病気がわかるの?」
実はあの行為、「脳がまだ生きているか、機能が止まってしまったか」を判断するための、非常に重要なチェックなのです。
今回は、少し重いテーマかもしれませんが、いつか来る親御さんとの別れの時に慌てないための、「命のサイン」に関するお話です。
脳が止まると、目は「開きっぱなし」になる
私たちの目(瞳孔・黒目の部分)は、カメラのレンズのように、光の量に合わせて大きさを自動調整しています。
眩しい時は小さくなり、暗い時は大きくなる。この調節を無意識に行っているのが、脳の奥深くにある「脳幹(のうかん)」という部分です。
医師がライトを当てて確認しているのは、この「対光反射(たいこうはんしゃ)」です。
- 脳が元気な時: 光が当たると、眩しいので瞳孔がキュッと縮む。
- 脳が機能を停止した時: 光を当てても反応せず、瞳孔が開いたまま動かない(散大)。
つまり、「光への反応が消える」ということは、脳からの指令が届かなくなっている=「死が極めて近づいている、あるいは脳死状態にある」ということを示すサインなのです。
「怖い」ではなく「旅立ちの合図」と捉える
家族にとって、親の目がうつろになり、反応しなくなる姿を見るのは辛く、怖いことかもしれません。
しかし、この体の変化をあらかじめ知っておくことは、最期の時間を落ち着いて過ごすための助けになります。
「ああ、今、脳がすべての活動を終えて、静かに眠りにつこうとしているんだな」
そう理解できれば、モニターの数字や医師の動きに一喜一憂するのではなく、親御さんの手を握り、「お疲れ様、ありがとう」と声をかけることに集中できるはずです。
体のサインは、残された家族に「お別れの準備」をさせてくれる、最期の優しさなのかもしれません。
いざという時に迷わないための「意思表示ツール」
脳の機能が停止し、自発的な呼吸ができなくなった時、人工呼吸器をつけて心臓だけを動かし続けるか、それとも自然な最期を受け入れるか。
究極の選択を迫られる場面があるかもしれません。その時、家族が迷わないように準備しておくことが大切です。
1. 想いを残す「エンディングノート」
「延命治療はどうしたいか」「最期はどこで迎えたいか」。
元気なうちに親御さんの希望を書き留めておく「エンディングノート」は、家族を守るお守りになります。
「縁起でもない」と敬遠せず、「もしもの時に私が困らないように、お母さんの気持ちを教えて」と頼んでみましょう。
2. 人生会議(ACP)の「啓発ガイドブック」
厚生労働省などが推奨している「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)」。
これは、医療やケアの希望について家族や医師と繰り返し話し合うプロセスのことです。
自治体や病院で配布されている「ACPガイドブック」や「わたしの手帳」といった冊子を使うと、話しにくいテーマもスムーズに切り出せます。
3. 自分のスマホに「緊急連絡先アプリ」
いざという時、気が動転して兄弟や親戚の電話番号が出てこないことがあります。
家族の連絡先や、かかりつけ医、エンディングノートの保管場所などをまとめて記録できる「終活アプリ」や「緊急連絡先管理アプリ」を入れておくと安心です。
まとめ
「瞳孔が開く」「光に反応しなくなる」。
それは単なる医学的な現象ではなく、長い人生を生き抜いた脳が、その役目を終える厳粛な瞬間です。
その時が来たら、怖がらずに、たくさんの感謝で送り出してあげてください。
「瞳孔が開く=脳機能の停止」。この知識、ドラマの中だけではありません。
対光反射の消失がなぜ起こるのか。それは生命維持の中枢である脳幹の機能が失われたからです。
この厳粛な身体のサインは、介護福祉士の国家試験でも問われる「死の徴候」に関する重要知識です。実際の試験問題で、その意味を再確認してみませんか?
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