「久しぶりに実家に顔を出したら、親がリビングで倒れていた」
「夜中にトイレに行ったきり戻ってこないので見に行ったら、うずくまっていた」
想像するだけでゾッとするシチュエーションですが、高齢の親御さんを持つご家族にとっては、いつ起きてもおかしくない現実です。
いざその場に直面したとき、パニックにならずに行動できる自信はありますか?
良かれと思ってやったことが、かえって状態を悪化させてしまうこともあります。
今回は、もしもの時に大切な家族を守るために知っておきたい、急変時の「正しい初動」と、やってはいけない「NG行動」についてお話しします。
1. 倒れている人を見つけたら「揺さぶる」のはNG
倒れている親御さんを発見した時、思わず「お母さん!」と体を強く揺さぶりたくなるかもしれませんが、これはNGです。もし骨折や頭部の怪我をしていた場合、悪化させる恐れがあるからです。
正しい手順:まずは「肩を叩いて呼びかける」
まずは周囲が安全か確認し、近づいて肩を軽く叩きながら、耳元で「大丈夫ですか?」と声をかけましょう。
- 反応がある(返事をする、動く)場合: どこが痛いか聞き、無理に動かさず様子を見ます。
- 反応がない場合: すぐに大きな声で助けを呼び、119番通報と、もしあればAED(自動体外式除細動器)の手配をします。
もし呼吸がなく心臓マッサージ(胸骨圧迫)が必要な場合は、必ず「仰向け(上を向いた状態)」で行います。ベッドの上などの柔らかい場所ではなく、床のような硬い場所で行うのが鉄則です。
2. 吐いた物を「素手」や「アルコール」で片付けるのはNG
急変時に嘔吐してしまうこともよくあります。
「汚いから早く片付けなきゃ」と、慌ててティッシュで拭き取ったり、アルコールスプレーをかけたりしていませんか?
高齢者の嘔吐の原因として多いのが、感染力の強い「ノロウイルス」です。
これはアルコール消毒では死滅しませんし、素手で触ると一瞬で感染してしまい、看病するあなた自身が倒れてしまうことになります。
正しい手順:完全防備で「塩素系漂白剤」を使う
吐物を処理する際は、必ず使い捨ての手袋、マスク、あればエプロンを着用して身を守ります。
そして、消毒には「次亜塩素酸ナトリウム(家庭用の塩素系漂白剤を薄めたもの)」を使用してください。
乾燥するとウイルスが空気中に舞い上がってしまうため、濡れた新聞紙などで覆いながら、素早く確実に処理するのがポイントです。
3. 出血している腕を「下ろす」のはNG
転倒して腕や足から血が出ている時、「痛いね、大丈夫?」とさすりながら、その腕を下に下ろしていませんか?
血は重力に従って流れるため、心臓より低い位置にあると出血量が増え、なかなか血が止まらなくなってしまいます。
正しい手順:患部を「心臓より高く」上げる
出血している部位を、清潔なガーゼやタオルで強く圧迫し(直接圧迫止血法)、心臓よりも高い位置に持ち上げてください。
これだけで出血の勢いを弱めることができます。
「熱」以外のサインも見逃さないで
最後に、高齢者が体調を崩した時の観察ポイントです。
「熱を測ったら37度だったから、大したことないわ」と安心するのは危険です。
高齢者は体の反応が鈍くなっており、肺炎などの重い病気にかかっていても高熱が出ないことがよくあります。
体温計の数字だけでなく、以下の「全身のサイン」も併せてチェックしてください。
- 意識レベル: ぼーっとしていないか、呼びかけにすぐ応えるか
- 顔色: 青白くないか、あるいは赤らんでいないか
- 呼吸: ゼーゼーしていないか、浅く速くなっていないか
「熱はないけど、なんとなくいつもと違う」。その家族の直感が、命を救うきっかけになります。
まとめ:知識がお守りになる
緊急事態は、予告なくやってきます。
その時に頭の片隅に「嘔吐物には漂白剤」「意識確認は肩を叩く」という知識があるだけで、冷静さを取り戻すきっかけになります。
いざという時のために、実家の目立つ場所に「使い捨て手袋」や「塩素系漂白剤」を常備しておくことから始めてみませんか?
