「なんだか親の元気がなくて、ぐったりしている」
心配になって体温を測ってみたけれど、体温計の数字は36.5度。「ああ、熱はないから風邪じゃないのかな」と少し安心する。
高齢のご家族と暮らしていると、よくある場面ではないでしょうか。
しかし、ここに高齢者ならではの「健康管理の落とし穴」が隠されています。
若い頃なら「風邪=高熱」という図式が成り立ちますが、高齢になると体が変化し、病気のサインがわかりにくくなることがあるのです。
今回は、見逃してはいけない「高齢者のバイタルサイン(体温や血圧などの生命の兆候)」の特徴と、家庭でできる正しいチェックポイントについてお話しします。
1. 高熱が出ない肺炎?「熱がない」を過信してはいけない
最も注意したいのが、「高齢者は、重い感染症にかかっても熱が出ないことがある」という事実です。
私たちの体は、ウイルスや細菌が入ってくると、それを退治しようとして熱を出します。しかし、高齢になって体力が落ちたり、体温調節機能が低下したりすると、この「戦う力」自体が弱まってしまい、高い熱が出ないことがあるのです。
例えば、命に関わる「肺炎」であっても、37度台の微熱や、時には平熱のまま進行してしまうケースも珍しくありません。
数字よりも「普段との違い」を見る
「熱がないから大丈夫」と数字だけで判断するのは危険です。
体温計の数字よりも、以下のような「いつもと違う様子」がないかを観察してください。
- なんだかボーッとしている、反応が鈍い
- 食欲がなく、水分もとりたがらない
- 呼吸がいつもより浅くて速い
「なんとなく変だな」という家族の直感は、意外と当たっているものです。熱がなくても、こうした変化があれば早めに受診を検討しましょう。
2. 痩せていると正しく測れない?体温測定のコツ
もう一つ、体温に関して意外な盲点があります。それは「痩せていると正しく測りにくい」ということです。
一般的に体温計は、脇の下に挟んで測りますよね。これは、脇をしっかり閉じて密閉空間を作ることで、体の内部の温度を測る仕組みになっています。
しかし、高齢になって痩せてくると、脇の下がくぼんでしまい、体温計を挟んでも隙間ができてしまうことがあります。すると、外気が入り込んでしまい、実際の体温よりも低く表示されてしまうのです。
正しく測るためのポイント
親御さんが痩せている場合は、以下の点に注意してみてください。
- 角度を調整する: 体温計の先端が、脇のくぼみの中央(一番深いところ)に当たるようにし、下から突き上げるような角度で挟む。
- 腕を密着させる: 隙間ができないよう、測定中は腕を体にしっかり密着させる(必要なら家族が軽く押さえてあげる)。
正しく測れていない「36.0度」を信じて、本当の発熱を見逃さないようにしましょう。
3. 病院だと血圧が上がる「白衣高血圧」
「家で測ると普通なのに、病院で測るといつも血圧が高いと言われる」
そんな経験はありませんか?
これは「白衣高血圧」と呼ばれる現象で、医師や看護師の白衣姿を見ると、無意識に緊張して血圧が上がってしまうものです。逆に言えば、病院のデータだけでは、普段の本当の血圧がわからないということでもあります。
また、心臓も筋肉の塊ですから、加齢とともに機能が変化し、不整脈などのトラブルが増えてきます。
「家庭血圧」を記録して医師に見せる
正しい診断のためには、リラックスしている自宅でのデータが非常に重要です。
毎朝決まった時間に血圧を測り、ノートに記録して、受診の際に医師に見せるようにしましょう。
「家ではこれくらいなんです」という証拠があれば、薬の量を調整したり、無用な心配を減らしたりすることにつながります。
まとめ:一番の名医は「家族の目」
高齢者の体調管理において、体温計や血圧計の数字はあくまで「目安」の一つに過ぎません。
機械では測れない「顔色」「声のトーン」「食欲」といった情報を一番よく知っているのは、毎日接しているご家族です。
「数値は正常だけど、何かおかしい」。その違和感を大切にして、親御さんの健康を守ってあげてください。
