「お母さんのために、安全な施設を探したよ」
「お父さんのために、ヘルパーさんを毎日頼んだよ」
親御さんのことを大切に思うからこそ、先回りして色々な準備をしますよね。
それなのに、親御さんはちっとも喜ばないどころか、「余計なことをするな!」と怒り出してしまった……。そんな経験はありませんか?
「せっかく色々やってあげたのに」と落ち込む前に、少しだけ立ち止まって考えてみましょう。
その「あなたのため」、主語がいつの間にか「家族(私)のため」にすり替わっていませんか?
今回は、介護のプロが最も大切にしている「生活課題(ニーズ)の把握」という考え方をヒントに、親子のすれ違いを解消する方法についてお話しします。
「お風呂に入りたくない」の裏にある本音
例えば、親御さんが「お風呂に入りたくない」と言ったとします。
これをそのまま「お風呂嫌いなんだな」と受け取るのは早計です。
介護の世界では、口に出す言葉(デマンド)と、その裏にある本当に解決すべき課題(ニーズ)を分けて考えます。
- 口に出す言葉: 「お風呂に入りたくない」
- 隠れた理由: 「脱衣所が寒くて辛い」「浴槽が深くてまたぐのが怖い」「人に裸を見られたくない」
もし理由が「寒さ」なら、暖房をつければ入ってくれるかもしれません。「怖さ」なら、手すりをつければ解決するかもしれません。
表面的な言葉だけを見て「わがままだ」と判断せず、「なぜそう思うのか?」という本当の理由(ニーズ)を探ることが大切です。
主役はあくまで「親本人」
問題なのは、家族が良かれと思って「親の気持ち」を置き去りにしてしまうことです。
「転ぶと危ないから、車椅子に乗って」
これは一見優しさですが、歩きたい親御さんにとっては「自由を奪う行為」かもしれません。
「家族が安心したいから」という理由で、親御さんの「自分でやりたい」という意欲を潰してしまっては本末転倒です。
介護における全ての決定権は、利用する「本人」にあります。
家族の役割は、決定することではなく、本人が自分で決められるように情報を整理し、サポートすることなのです。
本音を引き出すための「3つのアプローチ」
親御さんの真のニーズを見つけるために、今日からできることがあります。
1. 「なぜ?」を繰り返す
拒否や要望があった時、すぐに結論を出さず、「どうしてそう思うの?」と優しく聞いてみてください。
「面倒くさい」の一言の裏に、「実は腰が痛い」「失敗するのが怖い」といった身体的な不調や不安が隠れていることがよくあります。
2. 「エンディングノート」を一緒に書く
これからの生き方や、大切にしたい価値観を知るために、「エンディングノート」を活用しましょう。
「延命治療」などの重いテーマだけでなく、「好きな食べ物」「行きたい場所」「大切にしている時間」などを共有することで、判断の基準が見えてきます。
3. 第三者(ケアマネジャー)に翻訳してもらう
家族相手だと意地を張ってしまうこともあります。
そんな時は、ケアマネジャーなどの専門職に間に入ってもらいましょう。
「息子さんには言えなかったけど、実は……」と、第三者になら本音を漏らすことも多いものです。プロは、その言葉の中から「真のニーズ」を汲み取る訓練を受けています。
まとめ
「あなたのため」と思うなら、まずは「あなたがどうしたいか」を聞くことから始めましょう。
こちらの都合で決めたレールに乗せるのではなく、親御さんが歩きたい道を一緒に探すこと。
それが、本当の意味での「寄り添う介護」なのです。
「利用者のニーズを基盤にする」。これが介護計画の鉄則です。
家族の都合でも、専門職の独断でもなく、本人の「どう生きたいか」を出発点にすること。これは介護福祉士国家試験でも繰り返し問われる、ケアマネジメントの最も重要な原則です。
「当たり前だけど難しい…」と感じたあなた。ぜひ実際の試験問題で、その原則を再確認してみてください。
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