久しぶりに実家に帰ったら、部屋の隅にゴミ袋が溜まっていた。
あるいは、近所の人から「お宅のお父さん、ゴミの曜日を間違えてますよ」と注意された。
そんな時、家族としては恥ずかしさや苛立ちから、ついこう言ってしまいがちです。
「カレンダーに書いてあるでしょ! ちゃんと見てよ」
「だらしないなぁ、ゴミくらい捨ててよ」
でも、ちょっと待ってください。
長年普通にできていたことができなくなる。そのことに対して一番ショックを受け、傷ついているのは親御さん自身なのです。
ゴミ出しは、私たちが思っている以上に「高度な脳の働き」を必要とする作業です。
今回は、親御さんがゴミ出しにつまずく理由と、傷つけずにサポートするための「魔法の言葉」についてお話しします。
「ゴミ出し」は超難関の脳トレ?
「ゴミを捨てるだけ」と簡単に言いますが、そのプロセスを分解すると、実はかなり複雑です。
- 判断: 「これは燃える?燃えない?プラ?」と分別する。
- 記憶・確認: 「今日は何曜日?」「今日の収集は何?」とカレンダーと照らし合わせる。
- 実行: 指定の袋に入れ、縛り、朝の決まった時間までに集積所へ運ぶ。
加齢や認知症の初期段階で判断力や記憶力が低下すると、この一連の流れのどこかでつまずいてしまいます。
特に最近は分別のルールが細かくなっているため、「面倒くさい」「間違えたら怒られる」という心理が働き、結果として「家に溜め込む」という行動に出てしまうのです。
「頑張れ」は逆効果。「難しいね」が正解
もし親御さんがゴミ出しに失敗していたら、最初にかけるべき言葉は何でしょうか?
× 「カレンダーをよく見て!」(正論)
× 「ゴミがいっぱいで気持ち悪いよ」(非難)
× 「頑張ればできるよ」(プレッシャー)
これらは全て、親御さんを追い詰めてしまいます。
正解は、「まず共感すること」です。
「最近、分別が細かくて難しいよね。大変だったね」
まずは「できないこと」を責めずに、「難しさ」に共感してあげてください。
「わかってくれる人がいる」という安心感があって初めて、親御さんは「じゃあ、どうしようか」と次の対策を受け入れる余裕が生まれます。
失敗しないための「仕組み」を一緒に作ろう
共感した後は、親御さんが一人でもできるよう、あるいは手助けを受け入れやすいよう、環境を整えましょう。
1. 「文字」ではなく「写真」で分別表を作る
自治体が配る細かい文字の分別表は、高齢者には読みづらいものです。
よく捨てるゴミ(納豆のパック、お菓子の袋など)の実物を写真に撮り、「これはプラ」「これは燃える」と大きく貼ったオリジナルの分別表をゴミ箱の近くに貼りましょう。
視覚的にパッと判断できれば、脳への負担が減ります。
2. カレンダーに「直接」貼る
ゴミ収集カレンダーを見るのも一苦労です。
卓上カレンダーの収集日に、直接「ゴミ袋の切れ端(色付き)」や「ゴミのシール」を貼っておくのも効果的です。
「黄色い袋の日」「青いシールのゴミ」と直感的に分かるように工夫しましょう。
3. 一緒にやる・プロに頼む
それでも難しい場合は、無理に一人でやらせようとせず、「一緒にやろう」と声をかけましょう。
ヘルパーさんや家族と一緒に分別を行い、「できた!」という体験を積み重ねることが大切です。
どうしても自力での搬出が難しい場合は、自治体の「ふれあい収集(戸別収集)」などのサービスを利用するのも一つの手です。
まとめ
ゴミ出しができないことは、恥ずかしいことではありません。
それは、親御さんがこれまで頑張ってきた生活のペースが、少し変化しようとしているサインです。
「汚い!」と怒る前に、「難しいよね、一緒に考えようか」と隣に座ってあげてください。
その優しさが、親御さんの尊厳と生活を守る一番の力になります。
「ゴミ捨ては難しいですよね」。この一言が言えますか?
失敗した利用者に最初にかける言葉として、叱咤激励ではなく「共感と協働(一緒に考える)」を選ぶ。これは介護福祉士国家試験でも正解となる、対人援助の基本中の基本です。
「つい正論を言っちゃうな…」と反省したあなた。ぜひ実際の試験問題で、プロの言葉選びを学んでみませんか?
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