実家に帰った時、親御さんが喉の奥で「ゴロゴロ、ゼロゼロ」と音をさせているのが気になったことはありませんか?
「痰(たん)が絡んでるなら出せばいいのに」
そう思って「咳払いして!」と言っても、力なく「コン、コン」とするだけで、すっきり出せない。
見ているこちらまで息苦しくなってしまいますよね。
実は、高齢者にとって「痰を吐き出す」という行為は、私たちが思う以上に体力を使い、難しい動作なのです。
そして、この「出せない痰」を放置することは、高齢者の死因上位である「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」や「窒息」につながる非常に危険なサインでもあります。
今回は、なぜ高齢者は痰が切れにくくなるのか、その体の仕組みと、苦しさを和らげるために家族ができるケアについてお話しします。
喉の中には「掃除用ベルトコンベア」がある
そもそも、痰とは何でしょうか?
それは、呼吸と一緒に入ってきたホコリや細菌、ウイルスなどを、体が粘液でくるんで固めた「ゴミの塊」です。
私たちの気管の内側には、「線毛(せんもう)」という細かい毛がびっしりと生えています。
この毛が、下から上へと波打つように動くことで、異物(痰)を喉元まで運んでくれるのです。いわば、全自動のベルトコンベアのような仕組みです。
そして喉元まで運ばれた痰を、最後に「ゴホン!」という「咳(せき)の爆発力」で外に飛ばします。これが痰出しの一連の流れです。
しかし、高齢になるとこの機能が衰えます。
- ベルトコンベアが止まる: 加齢や乾燥で線毛の動きが鈍くなり、痰が運ばれてこない。
- 爆発力が足りない: 肺活量や筋力が落ちて、強い咳ができず、痰を飛ばせない。
その結果、汚いゴミ(痰)が気管や肺に溜まり続け、そこで細菌が繁殖して肺炎を引き起こしてしまうのです。
痰を出すことも大切ですが、そもそも『痰の中に細菌を増やさない』ことも肺炎予防の鉄則です。命を守るための口腔ケアについて、改めて確認してみませんか?

家庭でできる「痰出し」サポート術
「自力で出せないなら、どうすればいいの?」
病院での吸引(機械で吸い出すこと)が必要な場合もありますが、その前に家庭でできる工夫もたくさんあります。
1. 部屋と喉を徹底的に「潤す」
乾燥した痰は、へばりついて取れません。
加湿器を使って部屋の湿度を50〜60%に保ちましょう。また、こまめな水分補給で体の中から潤すことも大切です。
お風呂の湯気を吸うだけでも、痰が柔らかくなって出しやすくなります。
2. 「重力」を使って痰を動かす
ずっと同じ姿勢で寝ていると、痰が肺の奥に溜まってしまいます。
「右を向いたり、左を向いたり」と体の向きを変える(体位変換)だけで、重力によって痰が動き出し、出しやすい位置まで移動してくれます。
これを専門用語で「体位ドレナージ」と言いますが、要は「寝返りを打つ」だけでも効果があるのです。
3. 背中を優しく「トントン」する
痰が絡んで苦しそうな時は、背中を優しく叩いてあげましょう。
手をカップ状(お椀のような形)にして、ポンポンとリズミカルに叩くことで、気管壁に張り付いた痰を振動で剥がす効果があります。
強く叩く必要はありません。「大丈夫? 楽になるといいね」と声をかけながらさするだけでも、親御さんの呼吸は落ち着くはずです。
背中をさすっても痰が出せず、苦しそうな時は『吸引』が必要になるかもしれません。『痛そう』『怖い』というイメージをお持ちの方に、プロの優しい技術を知っていただきたいと思います。

まとめ
「痰が絡む」というのは、体が必死に異物と戦っている証拠です。
「汚い」と嫌がらず、「悪いものを出そうと頑張っているんだね」と応援してあげてください。
お部屋の加湿と、優しい背中へのタッチ。その小さなケアが、親御さんの呼吸を守ります。
『カーッ、ペッ!』という咳払いができないのは、単なる筋力低下だけではありません。呼吸や飲み込みを司る『脳の司令塔』の老化が関係しています。

「痰は咳で出す」。当たり前のようで、実は命を守る重要な機能です。
気管の線毛運動や咳反射の仕組みを知っていること。これは介護の現場で利用者の呼吸状態を観察するために欠かせない基礎知識であり、国家試験でも問われるポイントです。
「仕組みがわかればケアが変わる!」と感じたあなた。ぜひ実際の試験問題で、その知識を確認してみてください。
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