「最近、親が『膝が痛い』と言って家から出たがらない」
「家の中でもゴロゴロしている時間が増えた気がする」
高齢の親御さんと接していて、そんな変化を感じることはありませんか?
「体が痛いなら、無理せず寝ていたほうがいいわよね」と、つい優しく布団を掛けてあげたくなるのが家族の情というものです。
しかし、実はその「良かれと思った安静」が、親御さんの体をさらに弱らせてしまう原因になることをご存知でしょうか。
今回は、高齢者の身体機能を守るために知っておきたい「リハビリ」の本当の意味と、寝たきりを防ぐための日常生活のヒントについてお話しします。
「動かない」ことが一番の敵になる
私たちは風邪を引いた時などは「安静にして治す」のが基本ですが、高齢者の生活においては、過度な安静は「毒」になることがあります。
人間の体は、使わない機能があっという間に衰えていくようにできています。
「痛いから動きたくない」「楽だから寝ていたい」といって一日中ベッドで過ごしていると、筋力が落ちるだけでなく、関節が固まって動かなくなったり(拘縮)、床ずれができたりします。
これを専門用語で「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」と呼びます。
特に、高齢者に多い「変形性膝関節症」などは要注意です。
膝が痛いから歩かない → 足の筋力が落ちる → 膝への負担が増えて余計に痛くなる → さらに歩けなくなる……という「負のサイクル」に入りやすいからです。
ご本人が苦痛を感じない範囲で、できるだけ体を起こし、動く機会を作ることが、今の元気を守る一番の薬になります。
リハビリは「元通りにする」ことだけではない
「リハビリ」と聞くと、病院のリハビリ室で、理学療法士と一緒に汗をかいて筋トレをする姿をイメージする方が多いかもしれません。
もちろんそれも大切ですが、高齢者のリハビリにはもう一つ、大切な視点があります。
それは、「今ある能力(残存能力)を活かして、今の生活を維持すること」です。
病気や加齢で失ってしまった機能を嘆くのではなく、「まだ動く手」「まだ歩ける足」を使って、自分らしい生活を続けること。これも立派なリハビリテーションです。
- 麻痺があっても、元気なほうの手を使って着替える
- 歩くのが遅くても、自分の足でトイレに行く
たとえ時間がかかっても、こうした「自分でやる」動作の一つ一つが、身体機能の維持につながっています。
趣味や楽しみも立派な「リハビリ」
「でも、親に『運動しろ』と言っても嫌がるんです」
そんな悩みを持つご家族におすすめなのが、「楽しみながら行うリハビリ」です。
リハビリは、必ずしも「訓練」である必要はありません。
- 囲碁や将棋を打つ: 指先を使い、盤面を考えることで脳と体を刺激する
- 手芸や園芸: 手を動かし、作品を作る喜びを感じる
- 散歩: 季節の花を見ながら歩く
こうした「趣味」や「余暇活動」に夢中になることは、廃用症候群の予防に非常に効果的です。
「運動のために歩こう」ではなく「あそこのパン屋さんまで買い物に行こう」と誘ってみる。そんな工夫が、親御さんの重い腰を上げるきっかけになります。
まとめ:毎日の生活すべてがリハビリ
親御さんが「やってほしい」と言った時、家族が先回りして全部やってあげることは、必ずしも優しさではありません。
「時間はかかっても、自分でやってもらう」ことが、親御さんの筋肉と自信を守ることにつながります。
「お父さん、洗濯物をたたむの手伝ってくれる?」
「お母さん、庭の花の水やりをお願いできる?」
そんなふうに、家庭の中で「役割」を持ってもらうことも、素晴らしい生活リハビリです。
無理のない範囲で、毎日の生活の中に「動くきっかけ」を作っていきましょう。
