久しぶりに実家に帰り、親の様子を見て「何か困っていることはないかな?」と心配になる。
でも、「元気? 大丈夫?」と聞くと、決まって返ってくるのは「大丈夫だよ、心配しないで」という言葉。
「本当は腰が痛いんじゃないか」
「食事の支度が面倒なんじゃないか」
そう感じていても、親が本音を話してくれず、会話が上滑りしてしまう……そんなもどかしさを感じたことはありませんか?
実は、人の話を聞く専門家であるケアマネジャーや相談員は、相手が話しやすくなるための「技術」を持っています。
今回は、そのプロの技術を少しだけ借りて、親御さんとの会話を深めるためのヒントをご紹介します。
1. 「はい・いいえ」で終わらせない質問の魔法
親御さんとの会話が続かない原因の一つに、質問の仕方があるかもしれません。
「ご飯は食べた?」
「お風呂は入った?」
「薬は飲んだ?」
これらはすべて「はい」か「いいえ」で答えられる質問(クローズドクエスチョン)です。こればかりだと、まるで尋問のようになってしまい、会話が広がりません。
プロが使うのは、「オープンクエスチョン(開かれた質問)」です。相手が自由に言葉を選んで答えられるような問いかけを指します。
- 「ご飯食べた?」→「お昼は何を食べたの?」
- 「体調は大丈夫?」→「最近、体の調子はどう?」
- 「デイサービスは楽しかった?」→「今日はどんなことをしたの?」
「どう?」「何?」と聞かれると、相手は少し考えて自分の言葉で話そうとします。そこから、「実はお昼に食べた魚が硬くてね…」といった、生活の具体的な悩み(本音)が出てきやすくなるのです。
2. 言葉以上に伝わる「顔」と「声」
人は、話の内容(言語)よりも、表情や声のトーン(非言語)から多くのメッセージを受け取っています。
眉間にシワを寄せて、早口で「何か困ってることないの!?」と聞いても、親御さんは「怒られている」「迷惑をかけている」と感じて口を閉ざしてしまいます。
大切なのは、「あなたを受け入れていますよ」というサインを出すことです。
- 穏やかな表情と笑顔
- ゆったりとした声のトーン
- 相手の話に合わせたうなずき
「うんうん、そうなんだね」と笑顔で頷くだけで、親御さんは「聞いてもらえている」という安心感を持ち、話しやすくなります。まずは「形」から入るのも、立派なコミュニケーション技術です。
3. 真正面はNG?話しやすさは「位置」で決まる
会話をする時、親御さんの真正面に座っていませんか?
実は、真正面での対峙は、無意識のうちに相手に「圧迫感」や「緊張感」を与えてしまいます。これは面接や尋問の配置です。
リラックスして話すのにおすすめなのは、「斜め(90度)の位置」です。
食卓の角を挟んで座るような位置関係だと、視線がぶつかりすぎず、適度な距離感が保てるため、心理的なハードルが下がります。
また、ベッドに寝ている親御さんと話すときは、立ったまま見下ろすのではなく、椅子に座って「目線の高さを合わせる」ことも忘れずに。これだけで、威圧感はぐっと減ります。
4. 「良かれと思って先回り」は我慢する
親の言葉が出てこないと、つい「〇〇ってことだよね?」「じゃあこうしておこうか」と、先回りして結論を出したくなりませんか?
特に、忙しい時や心配な時ほど、家族は「代わりに決めてあげる(決定代行)」ことをしがちです。
しかし、相談援助の基本原則は「本人の自己決定」です。
「本当はどうしたいのか」を本人の口から言ってもらうまで、ぐっとこらえて待つこと。
そして、「お母さんの気持ちはこういうことだね?」と確認(明確化)し、最後に自分で「そうしたい」と言ってもらうプロセスが、親御さんの尊厳を守ります。
まとめ:テクニックよりも「知りたい」という気持ち
今回ご紹介したテクニックは、どれも今日から試せるものばかりです。
- 「どう?」と聞く
- 笑顔でうなずく
- 斜めに座る
- 先回りせず待つ
これらを意識するだけで、親御さんの反応は少しずつ変わってくるはずです。
一番大切なのは、「親の気持ちをもっと知りたい」というあなたのその気持ちです。焦らず、ゆっくりと会話のキャッチボールを楽しんでみてください。
