「お父さん、暑いからお水飲んで」
「いや、のどは渇いてないから大丈夫だ」
夏場や、暖房の効いた冬の室内で、こんなやり取りを繰り返していませんか?
本人が「欲しくない」と言うなら無理に飲ませなくてもいいか……と引き下がってしまうと、後で取り返しのつかないことになるかもしれません。
高齢者の熱中症や脱水症状の多くは、「本人が渇きを感じていない」状態で静かに進行します。
「のどが渇いた」と言った時には、すでに体はカラカラの危険水域に達していることが多いのです。
今回は、なぜ高齢者は水を飲みたがらないのか、そして嫌がる親御さんにどうやって水分と塩分を摂ってもらうか、プロの知恵をお伝えします。
高齢者のセンサーは鈍っている
なぜ、暑い部屋にいても平気な顔をしているのでしょうか?
それは、我慢強いからではなく、脳の「口渇中枢(こうかつちゅうすう)」というセンサーが老化によって鈍くなっているからです。
体内の水分が減っているのに、脳から「水を飲め!」という指令が出ない。
だから、本人は嘘をついているわけではなく、本当に「渇きを感じていない」のです。
「のどが渇いたら飲んで」という声かけは、壊れたセンサーに頼るようなもので、非常に危険です。
これからの合言葉は、「のどが渇いていなくても飲む」です。
水だけじゃダメ?「塩分」が必要なワケ
「とにかく水をたくさん飲ませればいい」というのも、半分正解で半分間違いです。
大量に汗をかいた時に水やお茶だけをガブガブ飲むと、血液中の塩分濃度が薄まってしまいます。
すると体は、「これ以上薄まると危険だ!」と判断して、余分な水分を尿として出そうとします(自発的脱水)。
結果、飲んでいるのに脱水が進むという怖い状態になります。
汗をかいている時や、入浴後などは、「水+少量の塩分」、あるいはスポーツドリンクや経口補水液を勧めるのが正解です。
「飲みたくない」を「飲んじゃった」に変える工夫
理屈はわかっても、飲んでくれないのが現実ですよね。
そんな時は、飲み方や道具を工夫してみましょう。
1. 味がついた「経口補水ゼリー」
「水はお腹がたぷたぷするから嫌」という方には、「ゼリー飲料」が最強の味方です。
特にレモン風味やリンゴ風味の「経口補水ゼリー」は、デザート感覚でチュルッと飲めるので、拒否感が少なくなります。
また、水でむせやすい方にとっても、ゼリーは飲み込みやすく安全です。
2. 「目盛り付きボトル」でノルマを見える化
1日に必要な水分量をペットボトルや「目盛り付きのウォーターボトル」に入れて、テーブルに置いておきます。
「ここまでは飲もうね」と線を引き、飲んだ量が見えるようにすると、「あとちょっとだから飲もうかな」という気持ちになりやすいです。
3. タイミングを決める「点滴飲み」
「一度にコップ一杯」は高齢者には負担です。
「起床時」「10時のお茶」「昼食」「3時のおやつ」「入浴後」「就寝前」など、タイミングを決めて、コップ半分ずつ飲む「点滴飲み」を習慣にしましょう。
「薬を飲むついで」も絶好のチャンスです。
まとめ
高齢者の水分補給は、「飲みたい欲求」に任せてはいけません。
「時間になったから飲む」という「業務」にしてしまった方が、お互いに楽な場合もあります。
「お母さん、一緒にお茶しよう!」
そんな明るい誘い文句で、乾いた体に潤いと塩分を届けてあげてください。
「汗をかいたら塩分も」。この基本、徹底できていますか?
ただ水を飲ませるだけでなく、状況に合わせて塩分を含んだ飲み物を選ぶこと。これは熱中症対策の鉄則であり、介護福祉士国家試験でも問われる「命を守るための正解」です。
「知ってた!」というあなた。ぜひ実際の試験問題で、その知識を確認してみてください。
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