「私なんて…」と嘆く親に自信を。介護現場で使われる魔法の言葉『エンパワメント』とは

「足も痛いし、耳も遠い。もう私は家族のお荷物だね」

実家に帰った時、親御さんからそんな寂しい言葉を聞かされたことはありませんか?
身体が思うように動かなくなると、誰でも自信を失います。そんな親を見るに見兼ねて、「いいよ、私が全部やるから座っていて」と、家事や身の回りのことをすべて引き受けてしまう……。

その優しさは素晴らしいものですが、実はその行動が、親御さんの「生きる気力」を奪ってしまっているかもしれません。

今回は、介護のプロたちが大切にしている「エンパワメント」という考え方をご紹介します。これを知れば、親御さんへの接し方が変わり、ふたたび笑顔を取り戻すきっかけになるはずです。

目次

「してあげる」のではなく「力を引き出す」

エンパワメント(Empowerment)とは、直訳すると「力を与える」という意味ですが、介護の世界では「その人が本来持っている力を引き出すこと」と捉えられています。

高齢になると「できないこと」ばかりに目が向きがちです。
しかし、どんなに介護が必要な状態になっても、「できること」や「長所」は必ず残っています。

  • 料理は作れなくても、味付けのアドバイスはできる。
  • 買い物に行けなくても、孫に昔話を聞かせることはできる。
  • 手足が不自由でも、自分で選んで決めることはできる。

エンパワメントとは、ご本人が「あ、私にもまだできることがある!」「私はこれでいいんだ」と自分自身の力に気づき、自信を取り戻すプロセスのことです。
全部やってあげる「お世話」ではなく、その人が主役になれるよう「黒子」に徹することが、本当の親孝行と言えるのです。

エンパワメントで「できること」を増やすのは大切ですが、全部を自分でする必要はありません。人の手を借りてでも「自分で決める」ことが重要だという、新しい自立の考え方についてはこちらをご覧ください。

「魔法の道具」で小さな成功体験を

「できること」を増やすために、精神論だけでなく便利な道具(自助具)やサービスの力を借りましょう。
「自分でできた!」という小さな成功体験が、大きな自信につながります。

1. 握力が弱くても開けられる「オープナー」

ペットボトルや瓶の蓋が開けられなくて、「誰か開けて」と頼むのは、地味ですが自尊心を傷つける瞬間です。
軽い力で回せる「万能オープナー」や、缶のプルタブを起こす道具をキッチンに置いておきましょう。
「これなら自分で開けられるわ」という実感が、生活への意欲を高めます。

2. 自分専用の秘書「スマートスピーカー」

目が悪くて新聞が読めない、リモコンのボタンが多すぎて分からない。そんな悩みには、声で操作できる「スマートスピーカー」が最適です。
「今日の天気は?」「演歌をかけて」と話しかけるだけで、誰の手も借りずに情報や娯楽を手に入れられます。
「機械を使いこなしている自分」に自信を持ち、友人に自慢する親御さんも多いですよ。

3. 役割を取り戻す「先生と生徒の関係」

道具ではありませんが、最高のツールは「家族の質問」です。
「お母さん、この煮物の味付けどうやるんだっけ?」「お父さん、庭木の剪定教えてよ」と、あえて「教えてもらう立場」になってみてください。
「頼られている」と感じた瞬間、親御さんの背筋はピンと伸び、生き生きとした表情を見せてくれるはずです。

親御さんに「教えて」と聞く以外にも、自信を取り戻してもらうための会話テクニックがあります。プロが使う「心を開く質問の仕方」や「座る位置」の工夫も試してみませんか?

まとめ

親御さんが求めているのは、至れり尽くせりのサービスではなく、「自分はまだ必要とされている」という実感です。

「手伝うよ」の代わりに、「これ、どうやったらいいかな?」と聞いてみてください。
その問いかけが、親御さんの中に眠る「生きる力」を呼び覚ますスイッチになるはずです。

ついつい手を出してしまうのは「親のため」を思ってのこと。でも、その優しさが時として親御さんの意欲を奪っているかもしれません。家族の「心配」と本人の「願い」のすれ違いについては、こちらもあわせてご覧ください。

「力を引き出す=エンパワメント」。この言葉、覚えておいて損はありません。
単に支援を受けるだけでなく、本人が自分の能力に気づき、課題を解決していくこと。この前向きなプロセスは、介護福祉士の国家試験でも正解となる自立支援の核心です。
「今の話、なんだか勇気が出た!」というあなた。ぜひ実際の試験問題で、その深い意味を確認してみてください。
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