「お父さん、最近ちょっとしたことで怒鳴るようになったよね」
「お母さん、昔は肝が据わっていたのに、今は毎日不安だって電話してくる」
久しぶりに会った親御さんの性格が、まるで別人のように変わっていてショックを受けたことはありませんか?
「頑固になった」「わがままになった」と、性格のせいにしてイライラしてしまうこともあるでしょう。
でも、ちょっと待ってください。
その変化、実は性格の問題ではなく、「脳の仕組み」が変わってしまったことが原因かもしれません。
私たちは「心」で感情を感じていると思っていますが、実際には脳の中にある小さな「臓器」が反応しています。
今回は、高齢者の感情が不安定になりやすい理由を、脳科学の視点から紐解き、穏やかな生活を取り戻すヒントをお伝えします。
脳の中にある「不安警報機」が鳴り止まない
私たちの脳の奥深くには、アーモンドのような形をした「扁桃体(へんとうたい)」という部分があります。
ここは、恐怖や不安、怒りといった「情動(本能的な感情)」を感じ取るセンサーです。
危険が迫った時に「怖い!逃げろ!」と指令を出す、人間にとってなくてはならない「警報機」のような役割をしています。
若い頃は、理性を司る「前頭葉」という司令塔が、「まぁまぁ、そんなに怒らなくても大丈夫だよ」と扁桃体をなだめて、ブレーキをかけてくれていました。
しかし、加齢によってこの「理性のブレーキ」が弱まると、扁桃体が暴走し始めます。
その結果、
- 些細なことで「バカにするな!」と激怒する(攻撃反応)
- 「泥棒が入ったかもしれない」と過剰に怯える(恐怖反応)
といった行動が出てしまうのです。
つまり、親御さんはわざとあなたを困らせているのではなく、「脳内の警報が誤作動して、本人もパニックになっている状態」なのです。そう思うと、少し見方が変わりませんか?
「理屈」ではなく「快感」で脳を包み込む
扁桃体が興奮している時、いくら言葉で「怒らないで」「大丈夫だから」と理屈を説いても、ブレーキの壊れた脳には届きにくいものです。
では、どうすればいいのでしょうか?
扁桃体は「不快(不安・恐怖)」に敏感ですが、同時に「快(心地よさ)」にも反応します。
理屈ではなく、五感を通して「心地よい刺激」を与えることで、直接脳をリラックスさせることが有効です。
脳を癒やし、感情を穏やかにする3つのツール
「快」の刺激を生活に取り入れるために、具体的なアイテムやサービスを活用してみましょう。
1. 香りで脳に直結「アロマディフューザー」
五感の中で唯一、脳(大脳辺縁系)にダイレクトに届くのが「嗅角」です。
理屈抜きで脳を鎮めるには、香りが一番の近道です。リビングや寝室に「アロマディフューザー」を置き、ラベンダーやベルガモットなど、鎮静作用のある香りを漂わせてみましょう。
火を使わないタイプなら、高齢者の一人暮らしでも安心です。
2. 懐かしい音色で包む「音楽プレーヤー・スマートスピーカー」
好きな音楽や、昔懐かしい歌謡曲を聴くことは、脳にとって最高の「快」刺激になります。
操作が簡単な「高齢者向け音楽プレーヤー」や、声で選曲できる「スマートスピーカー」をプレゼントして、「お父さんの好きだったあの曲、かけてみようか」と誘ってみてください。
音楽に聴き入っている間は、不思議と怒りや不安が消えていることが多いものです。
3. 触れ合いで安心ホルモンを出す「ペットロボット」
「触れる」という感覚も、扁桃体を落ち着かせる効果があります。
本物のペットを飼うのが難しい場合は、撫でると反応する「癒やし型ペットロボット」や、肌触りの良い「抱き枕」などを取り入れてみてください。
何かを抱きしめたり撫でたりしている時、脳内には「オキシトシン」という安心ホルモンが分泌され、不安な気持ちがスーッと和らいでいきます。
まとめ
親御さんが感情的になっている時、それは「脳がSOSを出しているサイン」です。
同じ土俵に立って言い返すのではなく、「ああ、今、警報機が鳴っちゃってるんだな」と一歩引いて見てみましょう。
そして、香りの良いお茶を入れたり、背中をさすったりして、脳に「安全だよ、大丈夫だよ」というメッセージを送ってあげてください。
「親の性格が変わったのは脳のせい」。これを知っているだけで優しくなれます。
今回解説した、感情のブレーキ役やアクセル役となる脳の部位。実はこれ、「扁桃体(へんとうたい)」という名前で、介護福祉士の国家試験にも頻出する重要キーワードなんです。
「脳のどこの話だったっけ?」と気になったら、実際の試験問題で答え合わせをしてみませんか?
👉 【挑戦!】実際の試験問題を見てみる
