「体の不調」は心のサインかも?高齢者のうつ病を見逃さないために知っておきたいこと

「最近、親が『頭が痛い』『眠れない』と毎日のように電話してくる」
「内科で検査しても『異常なし』と言われるのに、本人は辛そうで……」

高齢の親御さんと接していて、このような原因不明の体調不良に悩まされたことはありませんか?
「年をとればあちこち痛くなるものだから」
「気が滅入っているだけじゃない?」

そうやって「年のせい」や「気の持ちよう」で片付けてしまいがちですが、実はその裏に、治療が必要な「心の病気」が隠れていることがあるのです。

今回は、若い頃とは症状の出方が違う「高齢者のうつ病」の特徴と、私たち家族が気をつけるべきリスクについてお話しします。

目次

「悲しい」と言わないうつ病に注意

一般的に「うつ病」というと、気分が落ち込んだり、「悲しい」「辛い」と訴えたりする姿をイメージしますよね。
しかし、高齢者の場合は少し様子が異なります。

気分の落ち込みといった精神的な症状よりも、「体の不調」が前面に出てくることが多いのです。

  • 頭痛、めまい、吐き気
  • 食欲不振、体重減少
  • 頑固な不眠
  • 「胸が苦しい」「息が詰まる」

ご本人は本気で体の病気を疑って内科や整形外科を受診しますが、検査をしても原因が見つかりません。
このように、体の症状という仮面をかぶって心の病気が隠れている状態を「仮面うつ病」と呼ぶことがあります。

「検査で異常がないなら大丈夫」と突き放さず、「もしかしたら心が疲れているのかもしれない」という視点を持つことが大切です。

なぜ高齢者はうつになりやすいのか?

「昔はあんなに気丈だった親が、なぜ?」と戸惑うご家族も多いでしょう。
高齢者がうつ病になりやすいのには、大きく分けて2つの理由があります。

1. 脳の老化(身体的要因)

うつ病は「心の弱さ」ではなく「脳の病気」です。
高齢になると、脳の神経伝達物質が減ったり、脳自体が萎縮したりといった「加齢による変化」が起こります。これがベースにあるため、若い頃よりもストレスに対する抵抗力が弱まっているのです。

2. 「喪失体験」の重なり(環境的要因)

高齢期は「喪失の時代」とも呼ばれます。

  • 定年退職による「社会的役割」の喪失
  • 配偶者や友人との死別による「対象」の喪失
  • 視力や聴力の低下など「健康」の喪失

これらが一度に押し寄せることで、心にかかる負荷が限界を超えてしまうのです。特に、連れ添ったパートナーを亡くした後の落ち込みは深く、注意が必要です。

「自殺」と「お酒」のリスクを甘く見ない

高齢者のうつ病で、絶対に知っておいてほしいリスクが2つあります。

高齢者の自殺率は高い

「高齢でおとなしいし、自殺する元気なんてないだろう」と思うのは非常に危険な誤解です。
実際には、高齢者の自殺率は他の年代に比べても高く、うつ病がその大きな要因となっています。「もう死んでしまいたい」「生きていても仕方がない」といった言葉が聞かれたら、決して聞き流さず、専門医に相談してください。

お酒への逃避(アルコール依存)

寂しさや不眠を紛らわせるために、お酒の量が増えてしまうケースも少なくありません。
アルコール依存とうつ病は非常に合併しやすく、お酒がうつ症状を悪化させ、さらに酒量が増えるという「負のスパイラル」に陥ります。
「晩酌の量が増えたな」と思ったら、要注意のサインです。

家族ができること:否定せずに「受診」へ

親御さんが体の不調を訴え続けたり、元気がなかったりする場合、まずは「その辛さを否定しない」ことが大切です。

「気のせいだよ」「もっとしっかりして」という励ましは、かえってご本人を追い詰めてしまいます。
「体が辛いんだね、よく眠れていないんだね」と辛さに寄り添った上で、「一度、心の専門家(心療内科や精神科)にも相談してみない? 眠れる薬がもらえるかもしれないよ」と、受診を勧めてみてください。

「精神科」への抵抗感が強い場合は、かかりつけの内科医に相談し、そこから紹介してもらうのも一つの手です。
「年のせい」で片付けず、心のSOSに気づいてあげることが、親御さんの穏やかな老後を取り戻す第一歩になります。

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