「もしかして虐待?」と感じたら。通報は「密告」ではなく「救命」です

久しぶりに実家に帰ったら、親の腕に見覚えのないアザがあった。
近所の家から、高齢者を怒鳴りつけるような声が頻繁に聞こえてくる。

「これって、もしかして……?」

そんな不安が頭をよぎった時、あなたならどうしますか?
「まさかそんなはずはない」「家庭内のことに口出しするのは気が引ける」と、見て見ぬふりをしてしまうこともあるかもしれません。

しかし、高齢者虐待は閉ざされた室内で行われることが多く、周囲が気づいた時には手遅れになっているケースも少なくありません。
今回は、もし虐待のサインに気づいた時、私たちが取るべき正しい行動と、やってはいけない対応についてお話しします。

目次

「確証がない」段階でも連絡していい

虐待を疑っても通報をためらってしまう最大の理由は、「勘違いだったらどうしよう」という不安ではないでしょうか。

「もし虐待じゃなかったら、相手の家族に迷惑がかかる」
「証拠もないのに警察沙汰にするのは怖い」

そう思うのは当然の心理です。しかし、高齢者虐待防止法という法律では、「虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに市町村へ通報しなければならない」と定められています。

ここでのポイントは、「虐待の事実確認は、通報者の仕事ではない」ということです。

本当に虐待があったのか、それとも転んでできたアザなのか。それを調査・判断するのは、通報を受けた市町村や地域包括支援センターの専門家の役割です。
私たちに必要なのは、「何かおかしい」という気づきを伝えることだけ。確証がなくても、通報することは法的に認められた正当な行為なのです。

やってはいけない「独自捜査」と「様子見」

心配するあまり、良かれと思ってやってしまう行動が、かえって事態を悪化させることがあります。特に注意したいのが以下の2点です。

1. 本人や家族を直接問い詰める

「そのアザ、どうしたの?」「お爺ちゃんを叩いたりしてない?」
虐待が疑われる家族(養護者)に対して、直接理由を聞いたり厳しく問い詰めたりするのは大変危険です。

虐待をしている当事者が逆上し、高齢者への暴言・暴力がエスカレートしたり、「外部にバレた」と警戒して介護サービスを拒否し、密室化が進んでしまう恐れがあるからです。
また、被害を受けている高齢者本人も、同居している家族の報復を恐れて、その場では「転んだだけ」と嘘をつくことがよくあります。

2. 「しばらく様子を見る」

「たまたま虫の居所が悪かっただけだろう」「もう少し様子を見てみよう」
この判断が、命取りになることがあります。虐待はエスカレートする傾向があり、様子を見ている間に取り返しのつかない事態になるリスクがあります。
専門職であっても、リスクを過小評価せず「即対応」が鉄則とされています。

通報は「家族を救う」きっかけになる

「通報=警察に捕まる」というイメージがあるかもしれませんが、高齢者虐待への対応は、必ずしも処罰だけが目的ではありません。

虐待をしてしまう家族の多くは、終わりの見えない介護に疲れ果て、精神的に追い詰められています。
通報をきっかけに行政が介入することで、介護サービスを増やして家族の負担を減らしたり、一時的に高齢者を保護(ショートステイなど)して距離を取らせたりと、「虐待をしてしまう環境」を改善する支援につなげることができます。

つまり、通報は告げ口や密告ではなく、高齢者と、介護に苦しむ家族の両方を救うためのSOSなのです。

相談先は「地域包括支援センター」か役所へ

もし異変を感じたら、お住まいの地域の「地域包括支援センター」または「市町村の高齢者福祉窓口」へ連絡してください。
もちろん、通報者の名前や個人情報が相手の家族に漏れることはありません。守秘義務によって守られています。

「虐待です!」と断定する必要はありません。
「近所の〇〇さんの家から怒鳴り声がして心配です」
「親の体にアザがあって、ちょっと気になるんです」

その一本の電話が、誰かの命と生活を守ることに直結します。
勇気を出して、専門家につないでください。

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