「お母さん、なんて言ったの? もう一回言って」
「だーかーら! おあんで……!」
「もう、何言ってるかわからないよ!」
脳梗塞の後遺症などで、親御さんの呂律(ろれつ)が回らなくなり、会話が噛み合わずにイライラしてしまう。
そんな経験はありませんか?
何度も聞き返されると、親御さんは「もういい、話したくない」と心を閉ざしてしまいます。
逆に、家族の方も「わかったふり」をして適当に相槌を打ってしまい、後でトラブルになることも……。
実は、この「ろれつが回らない」状態は、「構音障害(こうおんしょうがい)」と呼ばれる症状です。
頭の中では言葉がはっきり浮かんでいるのに、口の筋肉がうまく動かないために音にならない、とてももどかしい状態なのです。
今回は、このもどかしさを解消し、親御さんとの会話を取り戻すための、ちょっとした「聞き方のコツ」をお伝えします。
「ゆっくり、短く」が鉄則
構音障害の方にとって、長い文章を一気に話すのは、口の筋肉にとってマラソンのような重労働です。
後半になるほど疲れが出て、何を言っているか分からなくなってしまいます。
そこで有効なのが、「短く切って話してもらう」というルール作りです。
「お母さん、長いと聞き取れないから、単語だけで教えてくれる?」
「ゆっくり、一言ずつでいいよ」
と提案してみてください。
- ×「お椀で熱いお茶を飲もうとしたらこぼれちゃった」
- ○「お茶」「こぼれた」
これなら、聞き取る側も推測しやすくなります。
「お茶がこぼれたのね?大丈夫?」と確認すれば、会話は成立します。
質問は「Yes / No」で答えられるように
こちらから話しかける時も、工夫が必要です。
「どうしたの?(開かれた質問)」と聞くと、親御さんは状況を一から説明しなければならず、負担が大きいです。
推測を交えて、「はい」か「いいえ」で答えられる質問(閉じられた質問)を投げかけてみましょう。
- ×「何が欲しいの?」
- ○「お水が欲しいの?」(うなずく)
- ○「それともトイレ?」(首を振る)
これなら、言葉が出なくても首の動きだけで意思疎通ができます。まるでクイズのようですが、当たった時の「そうそう!」という親御さんの笑顔は、何よりの喜びになります。
困った時の「お助けツール」
どうしても聞き取れない時は、文明の利器やアナログな道具に頼りましょう。
1. 指差しで伝える「文字盤(五十音表)」
「あいうえお」が書かれたボード(文字盤)を用意し、一文字ずつ指を差してもらう方法です。
100円ショップのホワイトボードに手書きしてもいいですし、無料のイラスト付き「コミュニケーションボード」をネットからダウンロードして使うのもおすすめです。
2. スマホやタブレットの「筆談アプリ」
手が動くなら、スマホのメモ帳機能や、手書きができる「筆談アプリ」を使ってもらうのも手です。
口で言うよりも、書いて見せたほうが早いことはよくあります。
まとめ
言葉が伝わらない孤独は、想像を絶するものです。
だからこそ、「あなたの言いたいことを分かりたい」という家族の姿勢が、親御さんにとって最大の救いになります。
「もう一回言って」と突き放すのではなく、「ゆっくりでいいよ、短く言ってみて」と助け舟を出してあげてください。
その一言が、親子の会話をつなぐ架け橋になります。
「短く話してもらう」。これがプロのコミュニケーション術です。
構音障害の方への支援として、この対応は介護福祉士国家試験でも「最も適切」とされる正解です。
「私の対応、合ってたんだ!」と自信を持てたあなた。ぜひ実際の試験問題で、プロの視点を確認してみてください。
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