久しぶりに実家に帰ったら、足の踏み場もないほどゴミが散乱していた。
親の身なりが汚れ、お風呂に入っている様子がない。
あるいは、介護サービスを使おうとしても「他人が家に入るのは嫌だ!」と激しく拒否される。
こうした親御さんの変化に直面し、「どうしてこんなことになってしまったの」「私がなんとかしなきゃ」と、一人で悩み、自分を責めていませんか?
介護の現場では、こうした一筋縄ではいかないケースを「支援困難事例」と呼びます。
そして、プロであるケアマネジャーでさえ、こうした問題を一人で解決しようとはしません。必ず「チーム」で対応するという鉄則があるのです。
今回は、家族だけで抱え込むには重すぎる問題を、どのようにして地域の力を使って解決していくか、そのヒントをお話しします。
1. ゴミ屋敷は「だらしなさ」ではなく「SOS」
「昔はきれい好きだったのに、どうして片付けられないの?」
ゴミが溢れた実家を見て、親御さんを叱責してしまうこともあるかもしれません。
しかし、自分の身の回りのことができなくなる状態(ゴミ屋敷、医療拒否、不衛生など)は、「セルフ・ネグレクト(自己放任)」と呼ばれる状態である可能性が高いです。
これは、認知症や配偶者との死別による気力の低下などが原因で起こる「福祉的な課題」です。
「片付けなさい!」と怒ったり、無理やり業者を入れて片付けたりしても、根本的な原因が解決されなければ、すぐに元に戻ってしまいます。
いきなり警察を呼んでも解決しない
近所から「臭いがする」と苦情が来ると、焦って「警察に相談しなきゃ」と思うかもしれません。
しかし、生命の危険が切迫している場合を除き、ゴミ屋敷自体は犯罪ではないため、警察が介入して解決することは難しいのが現実です。
まずは、その背景にある「生活の崩れ」を立て直すために、「地域包括支援センター」などの福祉の専門家に相談し、信頼関係を築くことから始めるのが遠回りのようで一番の近道です。
2. 家族だけで戦わず「チーム」を作る
「親の要求がエスカレートして、ケアマネジャーさんにも強く当たってしまう」
「家族の言うことは全く聞いてくれない」
そんな時、「家族なんだから私が説得しなきゃ」「迷惑をかけて申し訳ない」と、ご自身で全て背負い込んでいませんか?
介護のプロであるケアマネジャーも、一人では対応しきれないと判断した時は、迷わず「地域包括支援センター」に助けを求めます。
そうすることで、保健師、社会福祉士、行政職員、民生委員などが集まり、「チーム」としてその家庭を支える体制を作るのです。
家族だけで抱え込むと、心身ともに疲弊し、共倒れ(燃え尽き症候群)してしまいます。
「手に負えない」と感じたら、それは「助けて」と言っていいタイミングです。地域のプロたちを巻き込んで、チームで親御さんを守る体制を作りましょう。
3. 「判断能力」が心配なら法的な守りを
認知症が進み、判断能力が低下してくると、ゴミ屋敷だけでなく「契約トラブル」のリスクも高まります。
- 訪問販売で不要な高額商品を買わされる
- 財産管理ができず、通帳をなくしてしまう
こうしたトラブルは、福祉サービスだけでは防ぎきれません。
そんな時に検討したいのが、法的に権利を守る「成年後見制度(せいねんこうけんせいど)」です。
家庭裁判所によって選ばれた後見人が、親御さんに代わって財産管理や契約行為を行うことで、悪徳商法などから守ることができます。
「お金の管理が心配になってきた」という段階で、早めに地域包括支援センターや専門家に相談してみましょう。
まとめ:その悩みは「家族の恥」ではありません
ゴミ屋敷や介護拒否、セルフ・ネグレクトといった問題は、決して「家族の恥」ではありません。誰にでも起こりうる、高齢期の生活課題です。
一番危険なのは、世間体を気にして問題を隠し、家族だけで抱え込んで社会から孤立してしまうことです。
まずは、お住まいの地域の「地域包括支援センター」に電話を一本かけることから始めてみてください。
「実は、親の家のことで困っていて…」
その一言が、解決に向けたチーム結成の合図になります。
