「給与明細を見たら、いつの間にか『介護保険料』という項目が増えていて驚いた」
40代を迎えた方から、よくそんな声を聞きます。
一方で、年金を受け取っている親世代の方からは、「なけなしの年金から、結構な額が引かれていて苦しい」という声も耳にします。
毎月必ず引かれるこのお金。一体どこへ運ばれ、どのように使われているのでしょうか?
実はこのお金の流れを知ることは、日本の介護制度が「誰のお財布」で成り立っているのかを理解する第一歩です。
今回は、普段あまり意識することのない「介護のお金の流れ」を、わかりやすく「バケツリレー」に例えて解説します。仕組みを知ることで、親の介護費用に対する見方も少し変わるかもしれません。
現役世代のお金は「今の高齢者」のために
40歳から64歳の現役世代(私たち子世代)は、健康保険料と一緒に介護保険料を支払います。これは、会社の給料から天引きされるのが一般的です。
「将来の自分のために積み立てているのかな?」と思っている方もいるかもしれませんが、実は違います。
私たちが支払った保険料は、会社や健康保険組合といった「集金係」によって集められ、一度「大きなプール(支払基金)」に納められます。
そして、そこから全国の市町村へ配られ、「今、介護を必要としている高齢者」のサービス費用として使われるのです。
つまり、40代・50代が払っているお金は、巡り巡って「今の親世代」を支えるために即座に使われています。私たちは自分の将来のためではなく、今の社会を支えるためにバケツリレーの最初の走者を務めているのです。
年金からも引かれる「参加費」
一方で、65歳以上の親世代も「もらう側」であると同時に「払う側」でもあります。
原則として年金から介護保険料が天引き(特別徴収)されており、このお金もまた、介護サービスの財源として大切に使われています。
- 現役世代(40-64歳):給料から天引き → 大きなプールへ
- 高齢者世代(65歳以上):年金から天引き → 市町村へ
この二つの大きな流れが合流し、さらに国や自治体の税金が加わって、初めて「1割(または2〜3割)負担」でヘルパーさんを呼んだり、デイサービスに行ったりすることができるのです。
仕組みを知って「備える」アクションプラン
介護保険は、国からの一方的なプレゼントではなく、世代を超えた「仕送り」のようなシステムで動いています。この仕組みを理解した上で、私たち家族には何ができるでしょうか。
1. 給与明細と年金通知書を「話題」にする
次に実家に帰った時、あるいはお茶の間で、「介護保険料って結構引かれるよね」と話題に出してみてください。
「お父さんの年金からはどれくらい引かれてる?」と聞くことで、親御さんの経済状況や、年金の手取り額を自然に確認するきっかけになります。
2. 「支え合い」であることを伝える
もし親御さんが「介護サービスを使うのは申し訳ない」「人様のお金を使うのは気が引ける」と遠慮しているなら、こう伝えてあげてください。
「私たち現役世代も、お父さんたち自身も、みんなでお金を出し合って作った制度なんだよ。だから、必要な時は堂々と使っていいんだよ」と。
仕組みを知ることは、サービス利用の心理的なハードルを下げることにつながります。
3. 将来の負担についてシミュレーションする
現役世代の数が減れば、一人当たりの負担が増えるか、受けられるサービスが減る可能性があります。
「制度があるから安心」と丸投げにするのではなく、「公的な補助はあくまでベース。プラスアルファの部分は自分たちで備えよう」と、貯蓄や民間保険のバランスを考える機会にしてください。
まとめ
介護保険のお金は、遠い国の話ではなく、私たちの給料や親の年金という「身近なお財布」から出ています。
それは、現役世代と高齢者世代をつなぐ、見えない「バケツリレー」の絆でもあります。
毎月の明細を見た時、「ああ、これが親の安心につながっているんだな」と少し想像してみる。そんな小さな関心を持つことから、自分たちの老後への備えも始まります。
