親御さんの介護保険を申請しようと書類を準備していると、必ず出てくるのが「主治医意見書」という言葉です。
「かかりつけの先生に書いてもらってくださいね」と役所で言われ、「ああ、いつもの先生にお願いすればいいのね」と軽く考えてしまう方も多いのですが、実はこの書類、要介護認定の結果(要介護度)を左右するとても重要なものなのです。
「先生は親のことをよく知っているから大丈夫」
そう思って任せきりにしていると、実際の生活の大変さが伝わらず、実態に合わない認定結果になってしまうことも……。
今回は、主治医意見書には具体的に何が書かれるのか、そして私たち家族が医師に何を伝えるべきかについてお話しします。
「主治医意見書」は認定審査の重要資料
要介護認定は、調査員による訪問調査の結果(一次判定)と、専門家による話し合い(二次判定)の二段階で行われます。
この「二次判定」の席で、調査結果と並んで重視されるのが、かかりつけ医が作成した「主治医意見書」です。
調査員はあくまで「その時の様子」を見るだけですが、主治医は「医学的な根拠」を持って、その人の状態を証明してくれるからです。
では、先生はこの書類にどんなことを書くのでしょうか?
主に以下のような「医学的な視点に基づいた生活機能」について記載されます。
1. 栄養・食生活の状態
単に「食べているか」だけでなく、低栄養状態になっていないか、飲み込み(嚥下)に問題はないかといった点です。これらは介護の手間や健康リスクに直結するため、詳しくチェックされます。
2. 医学的な管理の必要性
「訪問看護が必要か」「リハビリが必要か」といった判断です。褥瘡(床ずれ)の処置やインスリン注射など、医療的なケアがどれくらい必要かが書かれます。
3. 感染症の有無など
これから介護サービスを利用するにあたり、施設側が知っておくべきリスク(感染症の有無など)についても記載されます。
一方で、「趣味」や「過去の職歴」といった個人的なプロフィールは、この意見書の項目にはありません。
医師が報告するのは、あくまで「今の心身の状態」と「医学的に見た介護の必要性」です。
診察室の姿と、家での姿は違う
ここで問題になるのが、「医師は、家での親御さんの様子をすべて見ているわけではない」という点です。
高齢の患者さんは、医師の前だと「先生によく思われたい」「心配かけたくない」という心理が働き、家ではヨロヨロしているのに、診察室ではシャキッと背筋を伸ばして受け答えをしてしまうことがよくあります。これを「よそ行きの顔」といいます。
もし医師が、この「よそ行きの顔」だけを見て意見書を書いてしまったらどうなるでしょうか?
「栄養状態も良く、受け答えもしっかりしており、問題なし」と書かれてしまい、家で食事の支度や後始末に追われている家族の苦労が、認定に反映されない恐れがあるのです。
家族ができるアクション:メモを持って受診に付き添う
正しい認定結果を出してもらうためには、医師に「家でのありのままの姿」を知ってもらう必要があります。
介護申請をするタイミングで受診する際は、できるだけ家族が付き添い、以下のポイントを医師に伝えましょう。
医師に伝えるべき「生活の実態」メモ
口頭だと遠慮して言いにくいこともあるので、事前にメモにまとめて渡すのが効果的です。
- 食事の様子: 「最近ムセることが増えた」「食欲がなく、体重が減っている」「食べこぼしが多い」
- 家での失敗: 「薬の飲み忘れがある」「トイレに間に合わないことがある」「夜中に起きて騒いでしまう」
- 身体の動き: 「家の中では伝い歩きをしている」「お風呂に入るのを嫌がるようになった」
「昔はこんな仕事をしていた」「こんな趣味があった」といった話よりも、こうした「今の生活で困っている具体的なエピソード」のほうが、医師にとっては意見書を書くための貴重な情報源になります。
まとめ:医師との連携が納得のいく認定への近道
主治医意見書は、医師が書くものですが、その材料を提供するのは私たち家族の役割でもあります。
「先生は忙しいから」と遠慮せず、親御さんの生活を守るために、勇気を出して「家での様子」を伝えてみてください。その小さなアクションが、適切な介護サービスを受けるための大きな一歩になります。
