「実家に帰ったら、見たことのない高額な羽毛布団があった」
「親が不要なリフォーム契約を結んでしまい、解約できないか困っている」
認知症などで判断能力が低下してくると、こうした「契約トラブル」に巻き込まれるリスクが一気に高まります。
「もう歳だから仕方がない」「契約書にサインしてしまったから諦めるしかない」と、泣き寝入りしてしまうご家族も少なくありません。
そんな時に、親御さんを法的に守ってくれる強力な盾となるのが「成年後見制度(せいねんこうけんせいど)」です。
名前は聞いたことがあっても、「手続きが難しそう」「家族はなれないんでしょ?」と敬遠されがちなこの制度。
今回は、知っておくと安心できる「成年後見制度でできること」と、その担い手についてわかりやすく解説します。
1. 悪徳業者から守る最強の武器「取消権」
成年後見制度を利用する最大のメリット、それは後見人に与えられる「取消権(とりけしけん)」です。
通常、一度契約書にサインをしてしまうと、一方的に解約することは困難です。
しかし、成年後見制度を利用している場合(後見人がついている場合)、本人が判断能力不足ゆえに結んでしまった不利な契約を、後見人が後から「取り消す(無効にする)」ことができます。
- 訪問販売で買わされた高額な壺
- 不必要な家のリフォーム工事
- 内容を理解せずに契約した金融商品
これらを法的にチャラにできる権限は、認知症の親御さんを持つご家族にとって非常に大きな安心材料になります。(※ただし、日用品の購入など、日常生活に関する行為は取り消せません)
2. お金管理だけじゃない。「身上保護」という仕事
「後見人=財産管理をする人」というイメージが強いですが、実はもう一つ、とても大切な役割があります。
それが「身上保護(しんじょうほご)」です。
これは、親御さんが安心して暮らせるように、生活や療養に関する契約・手続きを代行することです。
- 介護サービスの契約
- 老人ホームなどの施設入所手続き
- 入院の手続き
これらは本来、本人か「法的な代理権」を持つ人しかできません。
「家族ならできるでしょ?」と思われがちですが、厳密には家族であっても代理権はありません。後見人になることで、こうした手続きを堂々と代行できるようになり、親御さんの生活基盤を整えることができるのです。
3. 家族もなれるし、プロにも頼める
「後見人には弁護士さんしかなれないんでしょ?」
そう誤解している方も多いですが、そんなことはありません。
家族がなることも可能
不正防止の観点から専門職(弁護士や司法書士など)が選ばれるケースが増えてはいますが、親族が後見人になれないという決まりはありません。
虐待や財産の使い込みなどのリスクがないと裁判所が判断すれば、配偶者やお子さんが選任されることもあります。
「法人」に頼むという選択肢も
また、個人だけでなく、社会福祉協議会やNPOなどの「法人(組織)」が後見人になることもできます。
「子供は遠方にいて通えない」「自分も高齢で自信がない」という場合は、こうした組織に任せることで、後見人が病気で倒れるといったリスクを避けることができます。
まとめ:不安を感じたら「地域包括支援センター」へ
成年後見制度は、判断能力が低下した後に利用する「法定後見」だけでなく、元気なうちに自分で後見人を決めておく「任意後見」という仕組みもあります。
「最近、親のお金使いが荒くなった気がする」
「物忘れが増えて、通帳の管理が怪しい」
そんなサインが見えたら、トラブルが起きる前に、お住まいの地域の「地域包括支援センター」に相談してみてください。
「親御さんを守るために、どんな制度が使えるか」を一緒に考えてくれるはずです。
