「お父さん、リハビリ頑張ってたのに、急に投げ出して寝ちゃったよ」
「孫からもらった包丁を使っていたのに、どうしたんだろう?」
脳梗塞などの後遺症で麻痺が残り、不自由な体でリハビリに励む親御さん。
順調に見えていたのに、ある日突然、道具を放り出して部屋に引きこもってしまった……。
家族としては「せっかく良くなってきたのに」「わがまま言わないで」と焦ったり、イライラしたりしてしまうかもしれません。
しかし、その「ふて寝」や「投げ出し」は、決してネガティブなだけの行動ではないのです。
今回は、リハビリ中に高齢者が抱く「悔しさ」という感情の正体と、それを乗り越えるために家族ができる具体的なサポート(便利な道具の活用)についてお話しします。
「できない」と認めることの辛さ
今回の事例のAさん(78歳男性)もそうでした。
右手が麻痺してしまったけれど、大好きな料理をもう一度作りたい。孫からもらった包丁を使って、左手だけで頑張ろうとしていました。
でも、好物の牛肉がうまく切れない。肉が逃げてしまう。
その瞬間、Aさんは包丁を置いて寝込んでしまいました。
これは「やる気がなくなった」のではありません。
「昔は当たり前にできていたことが、できない」という現実を突きつけられ、自分自身への苛立ちと悔しさが爆発した瞬間なのです。
「悔しい」と思えるのは、「まだ諦めていない」証拠です。
「もういいや」と本当に諦めてしまった人は、悔しがることさえしません。
親御さんがイライラしたり落ち込んだりしている時は、「ああ、まだ戦っているんだな」と、そのエネルギーを認めてあげてください。
片手料理を劇的に楽にする「自助具」たち
Aさんの場合、つまずいた原因は「お肉が固定できずに動いてしまうこと」でした。
気力だけで解決しようとせず、便利な道具(自助具)を使って物理的に解決してしまいましょう。
片手で料理をする方のために、素晴らしい道具がたくさん開発されています。
1. 食材を逃さない「釘付きまな板」
片手で包丁を使う時、一番困るのが「食材が動く」ことです。
「釘付きまな板(ワンハンド調理台)」には、野菜や肉を刺して固定できるピンがついています。
これなら、片手で包丁を動かすだけで、滑りやすいお肉もジャガイモもスイスイ切ることができます。
2. 置いたまま切れる「押し切り包丁」
普通の包丁は「引いて」切るため、食材を押さえる手が必要です。
上から押すだけで切れる「押し切り包丁」なら、片手だけの力でも硬いかぼちゃなどを安全に切ることができます。
3. 滑らない「シリコンマット」
ボウルを混ぜる時や、お皿に盛る時。下に「滑り止めマット」を敷くだけで、道具が固定されて作業が安定します。100円ショップのものでも十分効果があります。
「手伝って」と言える勇気
Aさんは翌日、「今日も手伝って」とヘルパーさんに言いました。
一度挫折して、悔しさを噛み締めて、それでも「やっぱりやりたい」と前を向いたのです。
家族にできる一番のサポートは、親御さんが「悔しい」と言える環境を作ること。
そして、「全部やってあげる」のではなく、「ここだけ手伝えばできる?」と、できない部分だけを埋めるパズルのピースになってあげることです。
まとめ
リハビリ中の「ふて寝」は、次のステップに進むための作戦タイムのようなものです。
「悔しかったんだね」と心の中で寄り添いながら、そっと便利な道具をキッチンに置いてみる。
そんな陰ながらの応援が、親御さんの「もう一度」を支えます。
「苛立ち」は「意欲」の裏返し。この心理、読み取れますか?
Aさんが包丁を置いた理由は「やる気がない」からではなく、「悔しい」からでした。
利用者の行動の裏にある感情を正しくアセスメント(評価)できるか。これは介護のプロとして非常に重要な視点です。あなたの洞察力を、試験問題で試してみませんか?
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