看取りの時期が近づき、お別れの覚悟を決めつつある中で、親御さんが急にこんなことを言い出してギョッとしたことはありませんか?
「天井から黒い雨が降ってくる」
「そこに知らない子供が座っている」
「もう家に帰らなきゃ(自宅にいるのに)」
意識が朦朧としている中で発せられる、つじつまの合わない言葉や幻覚の訴え。
家族としては「頭がおかしくなってしまったのか」「苦しんでいるのではないか」と不安になり、つい「そんなものいないよ!」「しっかりして!」と強い口調で否定したくなるかもしれません。
でも、どうか落ち着いてください。
これは「終末期せん妄(せんもう)」と呼ばれる、旅立ちの前に多くの人が経験する生理的な現象なのです。
今回は、最期の時間を穏やかに過ごすために、家族が知っておきたい「心のケア」と「接し方のルール」についてお話しします。
「お迎え現象」もそのひとつ?
終末期になると、身体機能の低下とともに脳の機能も低下し、夢と現実の区別がつかなくなります。
これが「せん妄」です。
- 幻視(げんし): いないはずの人や物が見える。
- 見当識障害: 今いる場所や時間がわからなくなる。
- 興奮・混乱: 意味不明なことを叫んだり、点滴を抜こうとしたりする。
昔から言われる「先に逝ったおじいちゃんが迎えに来た」という「お迎え現象」も、医学的にはこのせん妄の一種と考えられています。
これは脳が弱っているサインではありますが、必ずしも「苦しい」わけではありません。本人の見ている世界では、それがリアルな真実なのです。
否定は「恐怖」を生むだけ。正解は「受け止める」こと
もし親御さんが「虫がいる!」と怯えていたら、どう返せばいいのでしょうか。
× 「そんなのいないよ、夢でも見たんじゃない?」(否定)
これでは、親御さんは「自分の言うことを信じてもらえない」「見捨てられた」と感じ、孤独と恐怖が深まってしまいます。
○ 「虫がいるのね。それは怖いね」(受容)
○ 「私が払っておくから大丈夫だよ」(安心させる)
正解は、「否定せずに受け止めること」です。
本人の見ている世界を否定せず、「そう見えているんだね」と共感し、「私がついているから大丈夫」と安心させてあげること。
それが、混乱した脳を鎮める一番の薬になります。
親御さんが感情的になったり、不思議なことを言ったりするのは、人生の最期を受け入れるための『心の準備運動』かもしれません。死の受容プロセスを知ると、さらに優しく寄り添えます。

最期まで「五感」を大切にするケア
言葉でのコミュニケーションが難しくなっても、家族ができることはたくさんあります。
1. 「耳」は最期まで聞こえています
意識がないように見えても、聴覚は最期まで残ると言われています。
無反応だからといって無言で介護をするのではなく(選択肢3の誤り)、「体を拭くよ」「気持ちいいね」と優しく声をかけ続けましょう。
大好きな音楽をかけたり、思い出話をしたりすることも、親御さんの心を安らげます。
2. 呼吸が楽な「姿勢」を探す
息をするのが苦しそうな時は、枕やクッションを使って上半身を少し起こしてあげる(ファーラー位など)と、横隔膜が下がって呼吸が楽になることがあります。
逆に、顎を引いて丸まるような姿勢(選択肢4の誤り)は気道を圧迫して苦しくなることがあるので注意が必要です。
3. 「触れる」ことの安心感
不安で手足をバタつかせている時は、優しく手を握ったり、背中をさすったりしてあげてください。
「温かい手が触れている」という感覚は、言葉以上に「一人じゃない」というメッセージを伝えてくれます。
心の準備ができたら、体のサインについても知っておきませんか? ドラマで見る『瞳孔の確認』が持つ本当の意味を知れば、最期の瞬間も落ち着いて手を握ってあげられます。

まとめ
つじつまの合わない言葉は、混乱した脳が見せている「夢」のようなものです。
「変なことを言っている」と悲しまず、「不思議な世界を旅しているんだな」と大らかな気持ちで見守ってあげてください。
あなたの「そうだね」という優しい相槌が、親御さんの旅支度を穏やかなものにしてくれるはずです。
最期の時を自宅で迎えたいと願うなら、一つだけ絶対に準備しておくべきことがあります。それは『誰に死亡診断書を書いてもらうか』です。警察沙汰を避けるための必須知識はこちら。

「否定せずに受け止める」。看取りの現場でもこれが正解です。
つじつまが合わなくても、その人の世界を尊重する。これは認知症ケアだけでなく、終末期ケアにおいても最も重要な「心のケア」であり、国家試験でも問われる鉄則です。
「最期まで尊厳を守るとはどういうことか」を、実際の試験問題を通して考えてみませんか?
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