「お父さん、口の中のものがなくなってから次を入れて!」
「そんなに慌てなくても、ご飯は逃げないよ!」
食事のたびに、そんな注意を繰り返していませんか?
まだ口の中に食べ物があるのに、次から次へとスプーンで押し込んでしまう。
まるで何かに追われているようなその食べ方は、見ている家族にとって窒息や誤嚥(ごえん)が心配でたまりませんよね。
実はこの「詰め込み食べ」、前頭側頭型認知症(ピック病など) というタイプの認知症によく見られる症状の一つです。
本人の性格がせっかちになったわけではなく、脳のブレーキが効かなくなっている状態なのです。
今回は、言葉での注意が届きにくいこの症状に対して、環境を変えることで安全を守るテクニックをお伝えします。
なぜ、口いっぱいに詰め込んでしまうの?
前頭側頭型認知症では、脳の前頭葉という部分が萎縮します。
ここは「理性」や「我慢」をコントロールする司令塔です。ここがダメージを受けると、「脱抑制(だつよくせい)」といって、本能的な欲求を抑えることができなくなります。
目の前に大好きなご飯がある。
「食べたい!」という衝動が起きると、「噛んでから飲み込む」というプロセスを待てずに、次々と口に運んでしまうのです。
また、「同じ行動を繰り返す(常同行動)」という特徴もあり、食べる動作が止まらなくなっている可能性もあります。
これは脳の病気による反射的な行動なので、家族が横で「ゆっくり!」と叫んでも、本人の耳には届きにくいのが辛いところです。
『詰め込んでしまう』こと以外にも、食事中にこんなサインが出ていませんか? 親御さんの喉の力が弱まっている『危険信号』を見逃さないようにしましょう。

解決策は「目の前から消す」こと
本人の意志でコントロールできないなら、物理的に環境を変えるしかありません。
一番効果的で、プロも実践しているのが「小出し(わんこそば)作戦」です。
一度に定食のように全てのおかずを並べると、目に入った瞬間に全てのスイッチが入ってしまい、制御不能になります。
そこで、「目の前には一口分(または一皿分)しか置かない」ようにするのです。
具体的な実践ステップ
- コース料理のように出す
まずサラダだけを出す。食べ終わったら、次は小鉢を出す。最後にメインとお米を出す。
少し手間ですが、こうすることで物理的に「次を入れる」ことができなくなります。 - 「空のお皿」と交換する
食べ終わったお皿を下げてから、次のお皿を出します。
「はい、次はこれだよ」と声をかけることで、食事のペースメーカー役を家族が担うのです。
食事を楽しく安全にするためのツール
小出し作戦をスムーズに行うために、食器選びも工夫してみましょう。
1. 割れない「メラミン製の小鉢」
何度も出し入れをするので、軽くて割れにくい小鉢をいくつか用意しておくと便利です。
100円ショップのものでも十分ですが、介護用品コーナーにある「底に滑り止めのついた小鉢」なら、片手でもすくいやすく、さらに食べやすくなります。
2. 一口量が決まる「小さめのスプーン」
大きなスプーンだと、一度に大量にすくって頬張ってしまいます。
あえて「ティースプーン」や、ヘッドが小さめの「介護用スプーン」を使ってもらうことで、一口の量を強制的に減らし、窒息のリスクを下げることができます。
3. 見た目も満足「仕切りプレート」
どうしても一皿ずつ出すのが大変な時は、少しずつ盛り付けられる「仕切りプレート(ランチプレート)」を使うのも手です。
それぞれの区画に少量ずつ入れ、「ここを食べたら次はここ」と視覚的に区切ることで、ペースダウンを促せる場合があります。
詰め込み食べによる一番の恐怖は『誤嚥(ごえん)』や『窒息』です。スプーン選びだけでなく、食事の形態(とろみや刻み)を工夫することで、リスクはさらに下げられます。

まとめ
「詰め込み食べ」に対して、怒ったり注意したりする必要はありません。
それは脳のブレーキが壊れているだけで、悪気はないのですから。
「今日はコース料理風にしてみたよ」
そんな風に楽しみながら、物理的なコントロールで親御さんの喉を守ってあげてください。
『詰め込み食べ』に対して言葉で注意するのが逆効果なように、認知症の他の困った行動(帰宅願望など)にも『説得』は通用しません。環境を変えて解決するプロの知恵は、他の場面でも応用できます。

「少量ずつ出す」。これが窒息を防ぐプロの技です。
一見手間に思える「小分け配膳」ですが、前頭側頭型認知症の方にとっては、これが最も安全で適切な食事介助になります。国家試験でも正解となるこの知識、あなたは持っていましたか?
「なるほど!」と思ったら、ぜひ実際の試験問題で確認してみてください。
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