脳卒中などの後遺症で飲み込む力が弱くなり、鼻からチューブで栄養を入れる「経管栄養(けいかんえいよう)」を行っている親御さん。
面会に行くと、チューブをいじりながらこう訴えられることはありませんか?
「こんなのつけていたくない。みっともないし、邪魔だ」
「自分の口から食べたいから、抜いてくれ」
切実な訴えに、胸が締め付けられる思いがしますよね。
「元気になってほしいから我慢して」と説得しても、本人のイライラは募るばかり。中には、我慢できずに自分でチューブを抜いてしまう(自己抜去)方も少なくありません。
そんな時、家族はどうすればいいのでしょうか?
実は、ただ「我慢させる」のでもなく、かといって「勝手に食べさせる」のでもない、「プロを動かす」という第三の道があります。
今回は、親御さんの「食べたい」という尊厳を守るために、家族が果たすべき重要な役割についてお話しします。
「管を抜きたい」は、生きる意欲の表れ
まず理解したいのは、鼻のチューブは想像以上に不快だということです。
常に喉に異物感があり、見た目も変わってしまうため、自尊心が傷つきます。「抜きたい」と訴えるのは、わがままではなく「人間らしく生きたい」という叫びなのです。
しかし、だからといって家族の判断で「一口だけなら」とゼリーを食べさせたり、「かわいそうだから」とチューブを外したりするのは非常に危険です。
飲み込む機能が回復していない状態で口に物を入れると、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)や窒息を引き起こし、命に関わる事態になりかねません。
また、病院側が「抜かないように」と手を縛る(身体拘束)こともありますが、これは最終手段であり、本人のストレスをさらに高めてしまいます。
『口から食べていないから歯磨きは不要』は大間違いです。経管栄養の方こそ注意したい、命を守る口腔ケアについてはこちらをご覧ください。

家族の役割は「医療チームへの橋渡し」
では、どうすればいいのか。
ここで重要なのが、医師や看護師、リハビリ職などの「医療チーム」に、本人の熱意を正しく伝えることです。
医療現場は忙しく、どうしても「安全管理(栄養を確実に摂ること)」が優先されがちです。
そこに家族が介入し、「本人がこれほど強く『口から食べたい』と願っています。何か方法はありせんか?」と相談を持ちかけることで、状況が動くことがあります。
具体的な相談のアクション
- 「嚥下(えんげ)機能の再評価」をお願いする
「入院時より元気になっている気がします。もう一度、飲み込む力の検査をしてもらえませんか?」と医師に相談してみましょう。回復していれば、ゼリーなどの訓練食から始められるかもしれません。 - 「胃ろう」の検討
もし長期的に経管栄養が必要な場合、鼻のチューブではなく、お腹から直接栄養を入れる「胃ろう」に切り替える選択肢もあります。
手術は必要ですが、喉の不快感がなくなり、リハビリもしやすくなるため、「口から食べる練習」との併用が可能になるケースが多いです。
医師や看護師に親の気持ちを伝えたいけれど、忙しそうで言い出しにくい……。そんな時に役立つ、プロ直伝の『本音を届けるメモ術』と伝え方のコツです。

「食べたい」を諦めさせないために
「もう歳だし無理でしょう」と諦めず、まずは「本人の思い」を医療職に届けてください。
「お母さんが『食べたい』って言ってるんです。私たち家族も協力するから、リハビリの可能性を探ってもらえませんか?」
その一言が、医師や看護師、言語聴覚士たちを「チーム」として動かし、親御さんの「食べる喜び」を取り戻すプロジェクトが始まるきっかけになります。
まとめ
管を抜くかどうかを決めるのは医師ですが、その検討のスイッチを押せるのは、一番近くで親御さんの気持ちに寄り添っている家族だけです。
「ダメだよ」と止めるのではなく、「先生に相談してみよう!」と、その熱意をプラスの方向に導いてあげてください。
『家族だけで説得しなきゃ』と追い詰められていませんか? あなたには医師、看護師、ケアマネジャーという最強の味方がついています。チームで支える介護の形を再確認しましょう。

「手を縛る」のではなく「思いを伝える」。これがプロの正解です。
チューブを抜こうとする利用者に対して、どう対応するのが適切か。介護福祉士の国家試験でも、まさにこの「身体拘束をせず、本人の意思をチームにつなぐ」という姿勢が問われています。
「プロも同じように悩んで、この答えを出しているんだ」と知るために、実際の試験問題を見てみませんか?
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