「掃除機で吸われるみたいで痛そう…」そんな誤解を解く、プロ直伝「優しく痰を引く」ための決定的なコツ

在宅介護を続けていく中で、医師や訪問看護師からこう告げられることがあります。
「痰(たん)が自分で出せなくなってきているので、そろそろ『吸引器』を使いましょうか」

その瞬間、多くのご家族は不安になります。
「あの、チューブを喉に入れるやつ? 痛そうだし、怖くて私にはできない…」

細い管を口や鼻から入れる処置は、見ているだけでも辛いものですよね。
「掃除機で粘膜を吸われているみたいで可哀想」と感じる方もいるでしょう。

しかし、介護のプロが行う吸引は、力任せに吸い出しているわけではありません。
実は、「いかに痛くなく、苦しくなく吸うか」という点に、ものすごい技術と配慮が詰まっているのです。

今回は、もしご家庭で吸引が必要になった時に知っておきたい、プロの技術に隠された「優しさの工夫」についてお話しします。

目次

なぜ、チューブを「くるくる回す」のか?

吸引の様子をよく観察していると、上手な介護士さんほど、指先でチューブを「くるくると回しながら」操作していることに気づくはずです。

これには、明確な理由があります。
もし、チューブを動かさずに一点だけで吸い続けたらどうなるでしょうか?
掃除機のノズルがカーテンに吸い付いて離れなくなるのと同じように、チューブの先が口の中の粘膜に強く吸い付いてしまい、傷つけて出血させてしまう恐れがあるのです。

「回しながら吸う」
この動きによって、吸引の圧力を分散させ、粘膜への張り付きを防ぎながら、まんべんなく痰をキャッチしているのです。
あの一見何気ない「くるくる」は、親御さんの口の中を守るための、プロの優しさの表れなんですね。

吸引器を使うのは最終手段です。その前に、背中のさすり方や湿度の調整など、家庭でできる『痰を出しやすくするケア』を試してみませんか?

「奥まで入れない」という勇気

「苦しそうだから、奥の方まで入れて一気に取ってあげたい!」
家族ならそう思うのが親心ですが、ここにもプロの鉄則があります。

それは、「喉の奥(突き当たり)までは入れない」ことです。
具体的には、のどちんこ(口蓋垂)の手前あたりまでで留めます。

それ以上奥に入れると、「オエッ」という嘔吐反射を誘発して苦しいだけでなく、迷走神経という神経を刺激して、気分が悪くなったり心拍数が下がったりする危険があるからです。
「手前にあるものだけを、優しく取る」。これが安全な吸引の極意です。

吸引器を使う前にできる「ホームケア」

吸引はあくまで最終手段です。その前に、痰を出しやすくする環境を整えることも立派なケアになります。

1. 部屋の空気を「熱帯雨林」にする

乾燥した痰は、へばりついて吸引でもなかなか取れません。
加湿器をフル活用し、室内の湿度を50〜60%に保ちましょう。痰が水分を含んで柔らかくなれば、吸引の時間も短くて済みます。

2. 体の向きを変えて「重力」を味方につける

ずっと同じ姿勢で寝ていると、痰が肺の奥に溜まります。
2〜3時間おきに体の向きを左右に変える(体位変換)だけで、重力によって痰が喉元まで移動しやすくなります。

3. 口の中をきれいにする「口腔ケア」

口の中が食べカスや細菌だらけの状態で吸引をすると、チューブと一緒に菌を喉の奥へ押し込んでしまい、肺炎の原因になります。
吸引の前後に、スポンジブラシなどで口の中をきれいにしておくことが、親御さんの命を守ります。

痰の吸引と同じくらい大切なのが、口の中をきれいにすることです。口の中の雑菌を減らすことが、なぜ肺炎予防の決定打になるのか、その理由はこちらです。

まとめ

「吸引」は、苦しめるためのものではなく、呼吸を楽にしてあげるための「救いの手」です。

もし家族が吸引を行うことになっても、焦る必要はありません。
「くるくる、優しく」
そのイメージを持って、プロの指導を受ければ、あなたにもきっと痛くないケアができるようになります。

『痰の吸引が必要だから、普通のショートステイには預けられない…』と諦めていませんか? 医療的ケアが必要な方でも安心して泊まれる、家族のための休息場所があります。

「吸引チューブは回しながら」。この理由、もう説明できますね?
なぜ回すのか。それは「圧を分散させて粘膜を守るため」です。このプロの技術的根拠は、介護福祉士国家試験でも問われる「喀痰吸引の最重要ポイント」です。
「理屈がわかれば怖くない!」と思えたあなた。ぜひ実際の試験問題で、その知識を確認してみてください。
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