実家に帰った時、母親の料理を見て「あれ?」と思ったことはありませんか?
「味付けが以前と違う」
「簡単な料理なのに、すごく時間がかかっている」
「鍋を火にかけたまま、別のことをして焦がしてしまう」
あるいは、父親が「旅行の計画を立てられなくなった」「電球の交換すら、どうやっていいか分からず途方に暮れている」といった姿を見せることも。
「年をとって億劫になったのかな?」
「やる気がないだけじゃないの?」
そう思ってイライラしてしまうかもしれませんが、実はこれ、脳の前頭葉にある「司令塔」がうまく働かなくなっているサインかもしれません。
専門用語では「遂行機能障害(すいこうきのうしょうがい)」と呼ばれ、認知症や高次脳機能障害の初期症状としてよく現れます。
今回は、この「段取りができなくなる病気」の正体と、混乱している親御さんをサポートするための生活の工夫についてお話しします。
脳の司令塔が「ストライキ」を起こしている状態
私たちにとって当たり前の「料理」ですが、実はものすごく高度な脳の働きを必要とします。
- メニューを決める(目標設定)
- 冷蔵庫の中身を確認して買い物に行く(計画)
- 野菜を切りながらお湯を沸かす(実行・同時並行)
- 味見をして調整する(評価・修正)
この一連の流れを指揮しているのが、脳の前頭葉という部分です。
ここがダメージを受けると、一つ一つの動作はできるのに、それらを組み合わせて「ゴールに向かって計画的に動く」ことができなくなってしまいます。
- 行き当たりばったりになる: 必要な材料を買い忘れる、手順がめちゃくちゃになる。
- 修正がきかない: 予定外のことが起きると(電話が鳴るなど)、パニックになって料理を放置してしまう。
本人は「やりたいのに、どう進めればいいか分からない」という混乱の中にいます。
決してふざけているわけでも、怠けているわけでもないのです。
料理の手順だけでなく、日付や計算などの能力も落ちていないか気になりませんか? 病院へ行く前に家庭でさりげなく確認できるチェックポイントはこちらです。

失敗を防ぐための「外付けハードディスク」活用術
脳内の司令塔が不調なら、外側に司令塔を作ってあげれば良いのです。
記憶や手順を可視化するツールを使って、親御さんの行動をガイドしてあげましょう。
1. 料理の手順を「リスト化」する
「カレーの作り方」など、よく作る料理の手順を紙に書いて、キッチンの目立つところに貼っておきましょう。
「1. 野菜を切る」「2. 肉を炒める」とステップごとに確認できれば、パニックにならずに進められます。
「ホワイトボード」を用意して、その日のやることリストを書いておくのも効果的です。
2. 同時並行を防ぐ「タイマーと張り紙」
「お湯を沸かしながら洗濯」といったマルチタスクは避け、一つずつ片付けるように促します。
火を使う時は、必ず「キッチンタイマー」をセットする習慣をつけましょう。
また、玄関に「鍵、財布、携帯」と書いた張り紙をするなど、行動のチェックポイントを作ってあげることも大切です。
3. 複雑な操作を減らす「シンプル家電」
最新の多機能電子レンジや、ボタンの多いリモコンは、遂行機能障害のある方にはハードルが高すぎます。
「温めるだけ」の単機能レンジや、ボタンが大きな「汎用リモコン」など、操作がシンプルなものに変えるだけで、生活の自立度は保てます。
段取りが悪くなるのと同時に、「さっき言ったことを忘れる」という症状も出ていませんか? 認知症の代表的な初期サインである「記憶障害」についても知っておきましょう。

まとめ
「昔はテキパキできていたのに」と一番ショックを受けているのは、親御さん自身です。
できないことを責めるのではなく、「手順書」や「道具」という助っ人を用意してあげてください。
段取りさえ整えば、親御さんはまだまだ自分の力で生活を楽しむことができます。
「計画的に動けない」ということは、「複雑な契約内容を理解して判断する」ことも難しくなっている可能性があります。悪質な訪問販売などから親御さんを守る「法的な盾」についても知っておいてください。

「計画して実行できない=遂行機能障害」。この知識が、親の行動を理解する鍵です。
なぜ料理ができなくなったのか。その原因が「手足」ではなく「脳の計画力」にあると知っていれば、的確なサポートができます。
この症状は、認知症や高次脳機能障害の理解において非常に重要なポイントであり、試験でも頻出です。ぜひ問題を解いて確認してみてください。
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