認知症が進んできた親御さんに、「夕飯何が食べたい?」「次の日曜日はどこに行きたい?」と聞いても、反応が薄かったり、「わからん」と返されたりすることはありませんか?
そんな時、私たち家族はついこう思ってしまいます。
「認知症だから、もう自分の希望なんてないのかな」
「私が良かれと思うように決めてあげよう」
介護や生活の手続きなど、決めることは山積みです。親が決められないなら、子供がテキパキ決めるしかない。そうやって責任感で動いている方も多いでしょう。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
親御さんは本当に「何も感じていない」のでしょうか? もしかしたら、「感じているけれど、言葉にする方法を忘れてしまった」だけかもしれません。
今回は、言葉での会話が難しくなった親御さんの「意思」をどう汲み取るか。国が定めたガイドラインをヒントに、心の通訳になる方法をお話しします。
「言葉」が出なくても「心」は動いている
認知症になっても、その人の人格や好み、「快・不快」の感情は最期まで残ると言われています。
ただ、それを「言葉」に変換する機能や、「AとBどっち?」と聞かれた時に比較検討する機能が低下しているため、返事ができないのです。
言葉が出ない分、親御さんは全身を使ってメッセージを発信しています。
- 眉間のシワ: 「それは嫌だ」「不安だ」
- 穏やかな表情: 「それでいいよ」「安心だ」
- 視線の動き: 「あれに興味がある」「そっちは見たくない」
これらは全て立派な「意思表示」です。
「何も言わないから同意した」とみなして進めてしまうと、後で不穏になったり、拒否が強くなったりするのは、親御さんなりの「そんなつもりじゃなかった!」という抗議かもしれません。
言葉にならない親の思いを汲み取るには、「口に出す言葉」と「心の奥の願い」を分けて考える必要があります。すれ違いを防ぐためのヒントは、こちらをご覧ください。

国も推奨する「読み取る努力」
実は、厚生労働省が作成した「認知症の人の意思決定支援ガイドライン」という指針があります。
そこには、とても大切なことが書かれています。
「身振りや表情の変化も意思表示として読み取る努力を最大限に行うこと」
つまり、言葉で話せなくなっても、周りの人が表情や態度を観察して「きっとこうしたいんだな」と推測してあげることが、その人の尊厳を守ることにつながるのです。
本音を引き出すための「3つの工夫」
では、具体的にどうすれば「言葉以外の声」を聞くことができるでしょうか。
1. 「どっち?」ではなく「実物」を見せる
「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」という質問は、想像力を必要とするため意外と難しいものです。
実際にコーヒーと紅茶のパックを見せて、「これ?」と聞いてみてください。
じっと見つめたり、手を伸ばしたりした方が「正解」です。実物を見せることで、脳への刺激になり、意思が出やすくなります。
2. 絵や写真で伝える「コミュニケーションボード」
トイレ、食事、痛い、寒いなどのイラストが描かれた「コミュニケーションボード(意思伝達カード)」を使ってみましょう。
言葉が出てこなくても、指差しならできる場合があります。100円ショップの材料で手作りしたり、無料のアプリを活用したりするのもおすすめです。
3. 「嫌な顔」を見逃さない
これが一番重要です。
何かを提案した時、一瞬でも曇った顔をしたり、視線を逸らしたりしたら、それは「NO」のサインかもしれません。
無理強いせず、「また今度にしようか」と引く勇気を持つことも、立派な意思決定支援です。
道具やサインを見るだけでなく、日々の会話の仕方ひとつで、親御さんが話しやすくなることもあります。プロが使う「心を開く」会話テクニックもあわせて試してみませんか?

まとめ
親御さんの代わりに決断することは、家族の役目かもしれません。
でも、その決断の中に、ほんの少しでも「親御さんのサイン」を反映させることはできるはずです。
「今日は顔色が明るいから、こっちの服が好きみたい」。
そんな家族だからこそ気づける「小さな意思」を、どうか大切に拾い上げてあげてください。
親御さんが「わからない」と言ってしまう背景には、「自分はもうダメだ」という自信の喪失があるかもしれません。親の力を信じて引き出す「エンパワメント」という考え方を知っておいてください。

「顔色をうかがう」。それは介護において最高の技術です。
言葉にならない意思を表情や仕草から読み取ること。これは国のガイドラインでも推奨されている、認知症ケアの核心部分であり、国家試験の正解になる行動です。
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