「さっき言ったでしょ!」と親を怒る前に。認知症の初期サイン「新しい記憶だけ消える」不思議な現象

実家に帰った時、親御さんとの会話でこんな違和感を覚えたことはありませんか?

「お母さん、さっきご飯食べたばかりでしょ?」
「えっ、食べてないわよ」

あるいは、
「来週の病院の予約、カレンダーに書いておいたよ」
「聞いてないわよ、そんな話」

昔の話は鮮明に覚えているのに、ついさっきの出来事や、数分前の会話だけがすっぽりと抜け落ちている。
そんな姿を見ると、「ふざけてるの?」「私の話を聞いていないの?」とイライラしてしまうかもしれません。

でも、ちょっと待ってください。
その「ついさっきのことを忘れる」症状こそが、アルツハイマー型認知症の最も代表的な初期サインなのです。

今回は、なぜ「新しい記憶」だけが消えてしまうのか、その脳のメカニズムと、早期発見のために家族がチェックすべきポイントについてお話しします。

目次

脳の「入力ボタン」が壊れている状態

私たちの脳には、新しい情報を一時的に保存する「海馬(かいば)」という場所があります。
パソコンで言えば「保存ボタン」のような役割です。

アルツハイマー型認知症になると、この海馬が真っ先にダメージを受け、萎縮(いしゅく)してしまいます。
すると、新しい情報が入ってきても「保存ボタン」が効かないため、記憶として定着せず、右から左へと流れていってしまうのです。

一方で、昔の記憶(長期記憶)は脳の別の場所にしっかりと保管されているため、ダメージを受けるのはもっと後になります。
だから、「子供の頃の話」や「昔の武勇伝」は昨日のことのように話せるのに、「さっきのご飯」のことは忘れてしまうという、不思議な現象が起こるのです。

これは「ボケてしまった」のではなく、「新しいことを覚える機能だけが故障している」状態です。
そう理解すれば、「何度も同じことを聞く」親御さんへのイライラも、少しは減るのではないでしょうか。

「新しい記憶が消える」ということは、「自分で置いた場所を忘れてしまう」ということでもあります。それが「盗まれた!」という妄想に変わってしまう心理と、その対応法についてはこちらを参考にしてください。

「年のせい」と「認知症」の見分け方

「誰だって物忘れくらいあるでしょ」と思いますよね。
正常な老化による物忘れと、認知症による記憶障害には決定的な違いがあります。

  • 正常な老化: 「ご飯のおかず何だったっけ?」(食べたことは覚えている=体験の一部を忘れる)
  • 認知症: 「ご飯なんて食べていない」(食べたこと自体を忘れる=体験の全てを忘れる)

「体験したこと自体」が記憶から消えている場合は要注意です。
また、「日付や曜日がわからなくなる」「慣れた道で迷う」「料理の段取りが悪くなる」といった症状も、初期のサインとしてよく現れます。

脳を守るための「生活習慣」と「ツール」

アルツハイマー型認知症は、発症の20年以上前から原因物質(アミロイドベータ)が脳に溜まり始めていると言われています。
「おかしいな」と思ったらすぐに行動すること、そして予防的な生活を送ることが大切です。

1. 「日記」や「カレンダー」を生活の中心に

記憶力が落ちてきた親御さんには、記憶を補うツールが必要です。
卓上カレンダーに予定を大きく書き込んだり、その日あったことを「日記」に書く習慣をつけたりしましょう。
「書いてあるから大丈夫」という安心感が、不安を和らげます。最近は、予定を音声で教えてくれる「高齢者向けスマートスピーカー」も便利です。

2. 脳のゴミを排出する「有酸素運動」

原因物質であるアミロイドベータを脳から排出するには、血流を良くすることが一番です。
ウォーキングや水泳などの「有酸素運動」を週に数回行うだけで、認知症のリスクが下がることが分かっています。
「一緒に散歩に行こう」と誘い出すのが、最高の親孝行です。

3. 早期受診のための「もの忘れ外来」

「もしかして?」と思ったら、早めに専門医(脳神経内科や精神科、もの忘れ外来)を受診しましょう。
早期に発見できれば、薬で進行を遅らせたり、生活環境を整えてトラブルを防いだりすることができます。
「最近、健康診断に行ってないから行こう」と誘えば、親御さんのプライドを傷つけずに受診につなげられます。

「病院へ行こう」と決心しても、何科に行けばいいのか迷いますよね。認知症の診断において、専門的な「鑑別診断」がなぜ重要なのか、詳しくはこちらをご覧ください。

まとめ

「さっき言ったでしょ!」は禁句です。
親御さんはふざけているのではありません。脳の病気によって、直前の世界が消えてしまっているのです。

「何度でも教えるよ」という温かい姿勢と、カレンダーなどの便利な道具で、消えゆく記憶をサポートしてあげてください。

いざ病院へ連れて行こうとしても、親御さんが「自分はボケてない!」と拒否して困っていませんか?そんな時に自宅まで来てくれる「専門家チーム」の存在を知っておくと安心です。

「新しい記憶から消える」。これがアルツハイマーの鉄則です。
なぜ昔の話はできるのに、さっきのことは忘れるのか。この「近時記憶障害」の特徴を知っていることは、認知症ケアの基本中の基本であり、国家試験でも必ず問われる知識です。
「だから親はあんな風だったのか!」と納得したあなた。ぜひ実際の試験問題で、その理解を深めてみませんか?
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