「退院後は、ご自宅で酸素吸入を続けましょう」
「おしっこの管(カテーテル)を自分で管理する必要があります」
医師からそんな説明を受けたとき、「家が病院みたいになってしまうの?」「素人の私に管理できるのかしら」と不安に押しつぶされそうになったことはありませんか?
住み慣れた家で療養できるのは嬉しい反面、見慣れない医療機器との生活には戸惑いがつきものです。
しかし、最近の医療機器は、患者さん本人やご家族が自宅で扱いやすいように、コンパクトで使いやすく進化しています。
今回は、在宅医療でよく使われる代表的な機器について、その役割と、生活の中で気をつけるべきポイントをわかりやすく解説します。
1. 指先で健康チェック「パルスオキシメーター」
コロナ禍でニュースなどでもよく目にするようになった、指先を挟むクリップのような機械。これが「パルスオキシメーター」です。
これは、採血をして痛い思いをしなくても、指を挟むだけで「血液の中にどれくらい酸素が足りているか(動脈血酸素飽和度)」を測れる優れものです。
- 使い方のコツ: 手の指だけでなく、足の指でも測定できます。マニキュアを塗っていたり、指先が冷え切っていたりすると正しく測れないことがあるので注意しましょう。
「なんとなく息が苦しそうだな」と思ったとき、数値で客観的に状態を確認できるため、在宅介護における「健康のバロメーター」として非常に頼りになります。
2. 酸素をしていても旅行に行ける「在宅酸素療法」
肺の病気などで、自宅に設置した機械から酸素を吸う「在宅酸素療法(HOT)」。
鼻にチューブを通した姿を見ると、「もう家から出られないんだ」と悲観してしまうご家族もいらっしゃいます。
でも、安心してください。酸素療法をしていても、家に引きこもる必要はありません。
外出用に、リュックやカートで持ち運べる「携帯用酸素ボンベ」や「小型の濃縮装置」が用意されています。これらを使えば、近所のスーパーへの買い物はもちろん、事前に準備をすれば旅行に行くことだって可能です。
酸素は「生活を制限する鎖」ではなく、「苦しくならずに動くためのエネルギー源」です。医師と相談しながら、積極的にお出かけを楽しんでください。
3. 感染予防が命!「カテーテル」の管理ルール
ご自身で尿道に管を入れて尿を出す「自己導尿」などを行う場合、カテーテル(管)の管理が必要になります。
ここで絶対に守らなければならないのが、「消毒」です。
「自分のおしっこだから汚くないでしょ?」と油断して、洗わずに使い回すのは大変危険です。
体の中に異物を入れる行為ですので、不衛生な器具を使うと、そこから細菌が入り込み「尿路感染症」を引き起こして高熱が出たり、腎臓を傷めたりする原因になります。
使用後はきれいに洗浄し、決められた消毒液に浸して保管する。
この「ひと手間」が、親御さんの体を感染症から守る命綱になります。
4. 霧で薬を届ける「ネブライザー」
「ネブライザー」は、液体の薬を細かい霧状にして、口や鼻から吸い込むための吸入器です。
喘息の発作を抑えたり、粘り気のある痰(たん)を出しやすくしたりするために使われます。
ご高齢の方は、飲み薬を飲むのが苦手な場合も多いですが、霧を吸うだけのネブライザーなら、負担が少なく確実に薬を気管支や肺に届けることができます。
知っておきたい用語「ストーマ」
最後に、よく耳にするけれど誤解されやすい言葉について触れておきます。
「ストーマ」とは、手術によってお腹に作られた排泄口、いわゆる「人工肛門」や「人工膀胱」のことです。
のど仏の下を切開して呼吸の穴を作る「気管切開」とは別物です。
ストーマの場合、パウチ(袋)の交換などのケアが必要になりますが、慣れれば入浴も旅行も普段通りに行えます。
まとめ:機器は「生活を助けるパートナー」
見慣れない機械が家にあると、最初は圧倒されてしまうかもしれません。
しかし、これらの機器はすべて、親御さんが「苦痛なく、家で自分らしく過ごすため」に開発されたパートナーです。
使い方がわからなければ、訪問看護師や医師に何度でも聞いて大丈夫です。
正しく管理して、機器の力を借りながら、穏やかな在宅生活を送っていきましょう。
