「実家に帰ったら、なんとなく親の元気がない気がする」
「風邪をひかせないように気をつけているけれど、本当にこれで合っているの?」
高齢の親御さんと暮らしていたり、離れて暮らしていたりすると、感染症の流行シーズンは特に心配が尽きませんよね。
高齢者は免疫力が低下しているため、一度感染症にかかると重症化しやすく、肺炎などが命取りになることもあります。
しかし、私たちが普段「常識」だと思っている予防法の中には、実は高齢者や特定のウイルスには通用しないものもあります。
今回は、意外と知られていない「高齢者の感染症の特徴」と、家庭で実践すべき「正しい予防の鉄則」についてお話しします。
1. 「元気そうだから大丈夫」は一番の油断
感染対策の基本中の基本、それは「見た目に惑わされないこと」です。
医療の現場には「スタンダード・プリコーション(標準予防策)」という考え方があります。これは、「すべての人の血液や体液、排泄物は、感染症の可能性があるものとして扱う」というルールのことです。
家庭でも同じことが言えます。「孫は元気そうだから、おじいちゃんに抱きついても大丈夫」と思っていても、実はお孫さんが症状の出ないウイルスを持っている(保菌者である)可能性はゼロではありません。
「誰が持っているかわからない」という前提で、オムツ交換の際は必ず手袋をする、帰宅後は家族全員が手洗いをするなど、基本のバリアを崩さないことが大切です。
2. 咳が出ない「隠れ結核」に注意
「結核(けっかく)」と聞くと、昔の病気だと思っていませんか?
実は日本はまだ結核の中蔓延国であり、特に高齢者の発症が多く見られます。
ここで怖いのが、高齢者の場合、結核特有の「激しい咳」や「微熱」が出ないことがあるという点です。
- なんとなく元気がない(全身倦怠感)
- 食欲がなくて痩せてきた
- 寝汗をかく
こうした症状が、単なる「老化」や「夏バテ」と勘違いされ、発見が遅れてしまうケースが少なくありません。
「咳が出ていないから肺は大丈夫」と思い込まず、食欲不振や体重減少が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
3. ノロウイルスに「アルコール」は無力
冬場に猛威を振るう「ノロウイルス」。嘔吐や下痢を引き起こし、脱水症状になりやすい高齢者にとっては命に関わる病気です。
もし家族がノロウイルスにかかった時、除菌のためにシュッシュッとアルコールスプレーを使っていませんか?
残念ながら、一般的なアルコール消毒はノロウイルスにはほとんど効果がありません。
ノロウイルスを退治するには、「次亜塩素酸ナトリウム(じあえんそさんなとりうむ)」が必要です。
これは、家庭用の「塩素系漂白剤(ハイターなど)」を水で薄めることで作れます。吐しゃ物の処理やトイレの消毒には、アルコールではなく、必ずこちらを使用してください。
4. 手洗いは「親指」と「手首」が盲点
「手洗いなんて毎日やっているよ」という方も、もう一度ご自身の手洗いを見直してみてください。
実は、多くの人が洗い残してしまう「盲点」があります。
- 親指の周り(ねじり洗いを忘れがち)
- 指先と爪の間(シワに入り込んだウイルス)
- 手首(長袖をまくらずに洗っていませんか?)
高齢者の介護をする前、食事の準備をする前には、これら3つのポイントを意識して洗うだけで、ウイルスの持ち込みリスクをぐっと減らすことができます。
5. ワクチンの「間隔」を正しく知る
予防の要であるワクチンですが、種類によって接種すべき頻度が異なります。
- インフルエンザワクチン: ウイルスの型が毎年変わるため、「毎年1回」の接種が推奨されます。
- 肺炎球菌ワクチン: 肺炎の原因菌を防ぐものですが、こちらは毎年打つものではありません。一般的には「5年に1回」などの間隔が推奨されています(※助成制度の対象年齢などは自治体により異なります)。
「去年打ったから大丈夫」あるいは「毎年打たなきゃ」と勘違いしないよう、母子手帳ならぬ「健康手帳」などで接種履歴を管理しておくことをおすすめします。
まとめ:正しい知識が「見えない敵」から親を守る
感染症は目に見えないからこそ、正しい知識が唯一の防御策になります。
- 咳がなくても結核を疑う視点を持つ
- ノロには漂白剤を使う
- 手洗いは親指と手首を意識する
これらは今日からすぐに実践できることばかりです。
「なんとなく」の対策を卒業して、効果的な予防で親御さんの健康を守っていきましょう。
