「退院後は、ご自宅でインスリン注射を続けてください」
「口から食事がとれないので、胃ろうなどの経管栄養を検討しましょう」
医師からそんな説明を受けたとき、頭の中が真っ白になってしまった経験はありませんか?
「医療行為なんて家族にはできない」
「家で管(くだ)をつないだまま生活するなんて、想像がつかない」
かつては病院でしかできなかった医療処置も、器具の進歩や訪問看護の普及により、今ではご自宅で行うことが当たり前になってきています。
とはいえ、知識がないまま引き受けるのは不安ですよね。
今回は、高齢者の在宅生活でよく登場する「医療処置」について、それが体の何の代わりをしているのか、家族はどう関わればいいのかを、やさしく解説します。
1. 自分でできる?「インスリン注射」
糖尿病の治療で使われる「インスリン」。これは血糖値を下げるホルモンですが、体内で不足している場合は注射で補う必要があります。
「注射を毎日打つなんて、素人には無理!」と怖がる必要はありません。
現在使われている注射器の多くは「ペン型」と呼ばれるもので、ダイヤルを回してボタンを押すだけ。針も極細で痛みも少なく、操作はとてもシンプルです。
高齢の親御さんご自身で打つこともできますし、難しければご家族がサポートしたり、訪問看護師にお願いしたりすることも可能です。「注射=怖い」というイメージを持たずに、まずは器具を触ってみることから始めましょう。
2. 腎臓の代わりをする「人工透析」
腎臓は、血液中の老廃物をろ過して、おしっこを作るフィルターの役割をしています。
この機能が働かなくなってしまった場合に行うのが「人工透析」です。
これは機械を使って血液をきれいにする治療で、一般的には週に3回程度、専門のクリニックに通院して行います。
ご自宅でご家族が処置をするわけではありませんが、通院の付き添いや送迎の手配が生活のサイクルに入ってくることになります。
3. 口以外から栄養をとる「経管栄養」
脳梗塞の後遺症や認知症の進行などで、口から食事を飲み込むことが難しくなった場合、「経管栄養(けいかんえいよう)」という方法が提案されることがあります。
- 胃ろう・腸ろう: お腹に小さな穴を開けて、直接胃や腸にチューブをつなぐ
- 経鼻胃管: 鼻から胃までチューブを通す
これらは、口の代わりに「管」を使って栄養剤を届ける方法です。
「管につながれてかわいそう」と感じる方もいるかもしれませんが、十分に栄養をとることで体力が回復し、顔色が良くなったり、リハビリが進んだりすることもあります。
栄養剤の注入は、手順を覚えればご家族でも行うことができます。
4. 普通の点滴とは違う「中心静脈栄養(IVH)」
「もう胃や腸も働かない」という場合に、点滴だけで栄養をとる方法があります。
風邪の時に腕にする点滴とは違い、「中心静脈栄養(IVH)」と呼ばれる特別な方法を使います。
人間が生きていくための高カロリーな栄養液はとても濃いため、腕の細い血管に入れると血管が炎症を起こしてしまいます。そのため、心臓に近い「太い血管(中心静脈)」までカテーテル(細い管)を通して、そこから栄養を全身に送ります。
これはカテーテルの管理が重要になるため、医師や訪問看護師による定期的なケアが欠かせません。
「全部自分でやらなきゃ」と思わないで
これら医療処置の名前を聞くと、どうしても「重病人」「寝たきり」というイメージを持ってしまいがちです。
しかし、適切な処置を受けながら、車椅子で散歩をしたり、デイサービスに通ったりして、穏やかに暮らしている高齢者はたくさんいます。
そして何より大切なのは、「家族だけで管理しようとしないこと」です。
在宅で医療処置が必要な場合は、必ず「訪問看護ステーション」や「往診医」との連携が必要になります。
「管が抜けたらどうしよう」「熱が出たらどうしよう」といった不安は、プロのサポートチームと共有できます。
「わからないから怖い」状態から、「仕組みがわかれば付き合っていける」状態へ。
まずは医師や看護師に「どんな生活になりますか?」と、具体的なイメージを聞くところから始めてみましょう。
