生活困窮者自立支援法とは?対象者と必須事業・任意事業の仕組みをやさしく整理

日本の社会保障において、生活困窮者自立支援法は「第2のセーフティネット」と呼ばれています。

第1のセーフティネットである「雇用保険(失業保険)」や「年金」だけでは生活を維持できなくなった人が、最後の網である第3のセーフティネット「生活保護」に陥ってしまう前に、早期に介入して自立を促すための制度として2015(平成27)年に施行されました。

単にお金を給付するだけでなく、相談者の抱える複合的な課題(就労、家計、心身の健康、家族関係など)を包括的に受け止め、伴走型の支援を行うことがこの法律の最大の特徴です。まずは、どのような人がこの制度の対象になるのかを確認しましょう。

目次

制度を利用できる「対象者」の条件。障害の有無は問われない

生活困窮者自立支援法が支援の対象とするのは、「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」です。

障害者も除外されず、包括的に支援される

この制度の対象者について、「障害のある人は、障害者総合支援法など別の法律があるから対象から除外されるのではないか」と誤解されることがありますが、これは明確な間違いです。

法律は対象者を「就労の状況、心身の状況、地域社会との関係性その他の事情により困窮している者」と広く定義しています。したがって、身体・知的・精神の障害の有無を理由に対象から除外されることは絶対にありません。

実際の相談現場では、未診断の精神疾患や発達障害を抱えていて仕事が長続きせず、経済的困窮に陥っているケースが非常に多く見られます。そうした方に対しては、本制度の相談窓口がハブ(結節点)となり、必要に応じて障害福祉サービスや医療機関と適切に連携しながら支援の網を広げていきます。

自治体が絶対に実施しなければならない「必須事業」の2本柱

生活困窮者自立支援法の大きな特徴は、実施主体である自治体(福祉事務所を設置する都道府県、市、特別区など)に対して、必ず実施しなければならない「必須事業」を定めている点です。

市にとってこれらは「任意」ではなく、法的義務として整備しなければならない事業です。その中核となるのが以下の2つです。

1. 生活困窮者自立相談支援事業(相談の入り口)

困窮への支援は、まず本人の状況を正確に把握することから始まります。この事業は、生活に困っている人からの相談を包括的に受け止め、どのような支援が必要かを一緒に考え、個別の「自立支援計画」を作成する窓口の役割を果たします。

この事業はすべての実施自治体にとっての必須事業であり、「予算がないからやらない」という選択は許されません。

2. 生活困窮者住居確保給付金の支給(家賃の支援)

離職や廃業、あるいは個人の責任によらない休業などで収入が減少し、住まいを失うおそれのある人に対して、原則3か月(最長9か月)を限度に、家賃相当額を自治体から家主へ直接支給する制度です。

新型コロナウイルスの影響で一気に知名度が上がったこの給付金も、自治体の裁量で実施を決めるものではなく、法で定められた「必須事業」です。

民間への「委託」が認められている理由と社会福祉法人の役割

上記の必須事業である「自立相談支援事業」は、市役所の職員だけが担っているわけではありません。

法律上、この事業は適切な実施能力があると認められる社会福祉法人、特定非営利活動法人(NPO法人)、民間企業などの多様な主体に委託することが認められています。

なぜ行政の窓口業務を民間に委託するのでしょうか。

生活困窮の背景には、多重債務、DV被害、ひきこもり、家族の介護など、行政の縦割りの窓口(高齢者窓口、障害者窓口、児童窓口など)では対応しきれない複雑な課題が絡み合っています。そこで、地域に根差し、日頃から柔軟でフットワークの軽い支援を行っている社会福祉法人やNPO法人に業務を委託することで、制度の隙間に落ちてしまう人々をすくい上げる「断らない相談支援」を実現するためです。

地域の実情に合わせて実施される「任意事業」

必須事業とは別に、自治体が地域の実情や予算に合わせて実施するかどうかを判断できる「任意事業」も用意されています。任意だからといって重要度が低いわけではなく、自立に向けたより実践的なステップとして機能しています。

代表的な任意事業には以下のものがあります。

事業名支援の目的・内容
就労準備支援事業長い間仕事から離れていた人などに、生活リズムの改善や挨拶などの基礎能力を身につける訓練を行い、就労へのステップアップを支援する。
家計改善支援事業多重債務や滞納を抱える人に対し、家計表の作成や債務整理の調整を行い、自分自身で家計を管理できるように支援する。
子どもの学習・生活支援事業困窮世帯の子どもに対する学習支援や居場所づくりを行い、貧困の連鎖を防止する。
一時生活支援事業住居を持たない人(ホームレス状態の人など)に対して、一定期間、宿泊場所や衣食を提供する。

これらの任意事業がどれくらい充実しているかは、お住まいの自治体によって異なります。必須事業である「自立相談支援」で課題を整理し、必要に応じてこれらの「任意事業」のメニューを組み合わせていくのが支援の基本的な流れです。

都道府県と市町村の「責務」と管轄のルール

この制度を実施するにあたり、行政の「責務(責任を持って果たすべき役割)」は法律で明確に規定されています。「都道府県の責務は規定されていない」といった誤解が生じることがありますが、これも間違いです。

生活困窮者自立支援法第2条において、都道府県および市町村は、生活困窮者の自立の促進に関し「必要な施策を講ずる責務」を負う旨がはっきりと明記されています。

また、管轄のルールとして「福祉事務所」の有無が鍵になります。

  • 市(および福祉事務所を設置している町村): 自らが実施主体となって必須事業を行います。
  • 福祉事務所を設置していない町村: 町村の代わりに、都道府県が直接、自立相談支援事業などの必須事業を実施する主体となります。

つまり、日本全国どこに住んでいても、必ず都道府県か市(町村)のいずれかが責任を持って相談窓口を設け、生活困窮者を支援する体制が法的に担保されているのです。

「助けて」のサインを見逃さず、早期の相談へ繋ぐために

生活困窮者自立支援法は、ただ生活費を支給して終わる制度ではありません。「働きたいけれど自信がない」「家計のやりくりが分からず借金が増えてしまう」といった、本人が抱える「生きづらさ」そのものに寄り添い、地域社会での役割を再び見出せるように伴走する血の通った制度です。

  • 障害の有無に関わらず、困窮のおそれがあれば包括的に支援される
  • 自立相談支援と住居確保給付金は、自治体の「必須事業」である
  • 行政だけでなく、社会福祉法人やNPOなどの民間も相談窓口を担っている

現場の支援者や、周囲で困っている人を見かけたご家族がこれらの仕組みを知っておくことは、最悪の事態(生活破綻や孤立死)を防ぐための強力な武器になります。生活保護を申請する前段階に、これほど分厚い支援のメニューが用意されているという事実を社会全体で共有し、早期のSOS発信に繋げていくことが求められています。

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