知的障害や発達障害のある方の中に、特定の物や手順に対して、非常に強いこだわりを持つ方がいます。
例えば、「自分が決めた特定のタオルしか使わない」「いつもと同じ決まったルートを通らないとパニックになってしまう」といった姿です。これらは、周囲から見ると一見、頑固なわがままのように映ってしまうこともありますが、決してそうではありません。本人にとっては、そのこだわりを守ることこそが、見通しの立たない環境の中で自分の安心や心の落ち着きを保つための大切な手段になっています。
今回は、こうした強いこだわりや行動上の難しさを持つ方が、住み慣れた地域で買い物をしたり外出したりするのを支える障害福祉サービス「行動援護」について、現場の視点から具体的な仕組みと支援のあり方をまとめていきます。
高齢化する親御さんと、途絶えそうになる本人の外出機会
共同生活援助(グループホーム)で暮らしながら、日中は生活介護に通って軽作業などの日中活動に励んでいる、ある知的障害の男性がいます。
この男性には「なじみの店で、自分が納得して選んだタオルしか使わない」という強いこだわりがありました。今までは、週末などの休日にご両親が付き添ってそのお店へ連れて行き、本人が納得いくまで選ぶ買い物をずっと支えてきてくれました。
しかし、年月が経てばご両親も高齢になります。ある日、体力的な衰えや移動の負担から、これまで通りお店へ連れて行くことが難しくなったご両親から、グループホームのサービス管理責任者(サビ管)へ、このような相談が寄せられました。
「本人には強いこだわりがあるから、いつも行く店で、本人に直接タオルを選ばせてあげたい。親が行けなくなった今、何か代わりになるサービスはありませんか」
子どもの特性を誰よりも理解し、そのこだわりを尊重してきたからこそ出てくる、切実な相談です。何も対策をしなければ、この男性にとって数少ない、そして楽しみにしている「自分の意思で選ぶ機会」が失われてしまうことになります。
なぜ、一般的な移動支援や付き添いでは対応が難しいのか
このような相談を受けたとき、周囲はつい「誰かが代わりに買ってきてあげればいいのではないか」とか、「移動の付き添いなら、ボランティアや一般的な外出支援(移動支援事業など)を頼めばいいのでは」と考えてしまいがちです。
福祉サービスにはさまざまな外出支援がありますが、それぞれ目的や対象者が異なります。例えば、視覚障害のある方の移動をサポートする「同行援護」や、施設から一人暮らしに移行した方を対象とする「自立生活援助」などは、知的障害に伴う外出の難しさには対応していません。
何より、この男性の買い物には、ただ目的地まで歩くこと以上の、障害特性に合わせた難しさがあります。
移動の途中で、予期せぬ大きな音が鳴ったり、工事によっていつもと違うルートを通らなければならなくなったりしたとき、強い不安からパニックや衝動的な行動が出てしまうリスクがあります。また、お店に着いたときにお目当てのタオルが売り切れていた場合、その場で激しい混乱状態に陥ってしまうことも予想されます。
これらは、知的障害や精神障害に伴う「行動障害」と呼ばれるものです。専門的な知識や対応方法を持たない一般的なボランティアや移動介助では、本人がパニックを起こしたときにどう声をかけ、どう安全を確保すべきか、現場での判断が非常に困難になります。下手をすれば、外出自体が危険なものになってしまいかねません。
危険を予測して先回りする、行動援護の専門的な関わり
ここで選択肢にあがるのが、障害者総合支援法に基づく介護給付サービスである「行動援護」です。
行動援護は、知的障害や精神障害があり、行動上著しい困難がある方を対象としています。単に目的地へ安全に連れて行くだけの移動介助とは異なり、行動障害に対する専門的なアプローチを行う点に大きな特徴があります。
具体的に、行動援護のスタッフが現場で行っているのは、トラブルが起きてから対処するのではなく、トラブルを起こさないための徹底した「予防的対応」です。
事前の情報収集とパターン分析
本人がどんな場所や刺激(音、光、人混みなど)に対して不安を感じやすいか、過去にどのような状況でパニックが起きたかをあらかじめ細かく分析し、外出ルートや時間帯を慎重に計画します。
兆候の早期察知と環境調整
移動中、本人がソワソワし始めたり、声が大きくなったりするなど、パニックになりそうな小さなサインを五感でいち早く察知します。
先回りの声かけと危険回避
混乱が起きる前に、本人が安心できる決まった言葉をかけたり、静かな場所へ一時的に誘導したりして、本人の安心を保ちながら危険を未然に回避します。
「なじみのお店で、自分でタオルを選ぶ」という男性の願いを安全に叶えるためには、こうした専門的な先回りのサポートが欠かせません。行動の特性を正しく理解したスタッフが同行することで、男性はご両親の手を離れても、お気に入りのお店で買い物を続けることが可能になります。
行動援護を利用するための要件(障害支援区分など)
行動援護は専門性が高いサービスであるため、誰でも利用できるわけではなく、一定の利用要件が定められています。
まず、障害支援区分が「区分3以上」であることが前提となります。その上で、障害支援区分の認定調査項目のうち、行動障害に関する特定の項目(障害の特性に応じた行動の難しさを示す項目)の点数が「12点以上」に該当する必要があります。
今回の事例のAさんは「障害支援区分5」であり、知的障害に伴う強いこだわりがあるため、これらの要件を満たしている可能性が非常に高く、サービス管理責任者としても自信を持って提案できるサービスになります。
本人の「自分で選びたい」を形にするために
日々の支援業務に追われていると、外出に伴うトラブルやパニックのリスクを避けるために、つい「誰かが代わりに買って用意しておく方が安全で確実だ」と考えてしまう場面もあるかもしれません。そちらの方が、周囲にとっても手続きや管理の手間が省けるからです。
しかし、自分の生活で使うものを、自分の目で見て、触って、選んで買うということは、一人の大人としてごく自然な権利であり、生活の質を高める大切な要素です。
本人のこだわりを周囲の都合で無理に変えさせるのではなく、専門的な福祉サービスの仕組みを上手に活用して、そのこだわりをそのまま生活の中で維持していくこと。ご両親が高齢化していく中で、家族だけで抱え込まずにバトンタッチできる体制を作っていくためにも、行動援護のような専門的な視点を持った支援を正しく取り入れていくことが大切です。
