「昨日までは普通に会話できていたのに、今日いきなり『部屋に虫がいる！』と騒ぎ出した」
「夜になると急に興奮して、暴言を吐くようになった」
親御さんのそんな急変を目の当たりにすると、家族としては目の前が真っ暗になります。
「ついに認知症が一気に進んでしまったのか」
「もう家では見られないかもしれない」
絶望的な気持ちになるのも無理はありません。
しかし、ちょっと落ち着いてください。その症状、もしかしたら認知症の進行ではなく、「せん妄（せんもう）」という別の一時的なトラブルかもしれません。
認知症と違い、せん妄は「原因を取り除けば、ケロッと元に戻る」ことが多いのです。
今回は、家族をパニックに陥れる「せん妄」の正体と、冷静に対処するためのチェックポイントについてお話しします。
「ゆっくり」の認知症、「急に」のせん妄
まず、認知症とせん妄の決定的な違いを知っておきましょう。
- 認知症: 年単位でゆっくりと脳の細胞が変化し、症状が進んでいく。
- せん妄: 数時間〜数日の単位で急激に発症する、脳の一時的な機能不全（パニック状態）。
もし、「ここ数日で急におかしくなった」という場合は、せん妄の可能性が高いです。
せん妄は、意識がぼんやりしたり、興奮したり、幻覚が見えたりしますが、1日の中でも症状に波があり、特に夕方から夜にかけて悪化する傾向があります。
「原因（犯人）」は必ずどこかに潜んでいる
せん妄は、理由もなく起こるわけではありません。
脳をパニックにさせている「原因（因子）」が必ずあります。その原因さえ見つけて取り除いてあげれば、霧が晴れるように元の状態に戻ることが多いのです。
高齢者に多い「せん妄の引き金」は、意外と身近なところにあります。
1. 体の不調（脱水・便秘・感染症）
一番多いのがこれです。「水分が足りていない」「何日も便が出ていない」「風邪や尿路感染症で熱がある」。
こうした体のストレスが、脳にダイレクトに影響します。
2. 薬の影響
新しく飲み始めた薬や、睡眠薬の副作用でせん妄が起きることがあります。「最近薬が変わらなかったか？」をお薬手帳で確認してみましょう。
3. 環境の変化
入院や引っ越しなど、寝る場所が変わったストレスも大きな要因です。
せん妄の引き金となる「体の不調」は、熱が出ないことも多く発見が遅れがちです。見逃してはいけない高齢者特有の「隠れサイン」については、こちらをご覧ください。
家族ができる「原因探し」とケア
親御さんが急変したら、焦らずに「名探偵」になって原因を探してみてください。
1. 水分と排泄をチェックする
「今日は水をどれくらい飲んだ？」「トイレには行った？」
これを確認するだけで解決することも多いです。
水を飲みたがらない場合は、「吸い飲み」や「高濃度水分補給ゼリー」を活用して、少しでも水分を入れてあげましょう。脱水が改善すると、驚くほど落ち着くことがあります。
2. 部屋の明るさとリズムを整える
せん妄は、昼夜逆転すると悪化します。
昼間はカーテンを開けて日光を浴びせ、夜は「足元灯」などの優しい光にして、不安を取り除きましょう。
カレンダーや時計を目につく場所に置き、「今は朝ですよ」「ここは自宅ですよ」と優しく声をかけ続けることも、脳の混乱を鎮めるのに有効です。
3. 医師に「急に変わった」と伝える
病院に行く際は、「いつから」「どんな風に」変わったかをメモして医師に伝えましょう。
「認知症が進みました」と言うのではなく、「昨日から急に様子がおかしいんです」と伝えることが、正しい診断（せん妄の発見）につながる重要なキーワードです。
せん妄の原因で最も多い「脱水」。でも「水を飲んで」と言っても飲んでくれない時はどうすればいい？高齢者が喜んで水分を摂ってくれる工夫はこちらを参考にしてください。
まとめ
親が突然おかしくなったら、誰だって動揺します。
でも、「これは『せん妄』かもしれない。だとしたら、どこかに原因があるはずだ」と知識を持っているだけで、心の持ちようは全く違います。
まずは深呼吸をして、コップ一杯の水と、トイレの確認から始めてみませんか？
もし親御さんがご高齢で、不思議なものが見えているようなら、それは「お迎え」のサインかもしれません。穏やかな最期に伴う「終末期せん妄」についても知っておきませんか？
「せん妄ケアの鍵は、原因の特定」。これがプロの鉄則です。
なぜ急に暴れるのか？その裏にある脱水や便秘といった「因子」を見つけ出すこと。これがせん妄対策の正解であり、介護福祉士国家試験でも問われる最も重要なポイントです。
「原因さえ分かれば怖くない！」と思えたあなた。ぜひ実際の試験問題で、その知識を確信に変えてみてください。
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