高齢者やケガのリハビリ中など、車椅子での生活が中心になっている方は、座る姿勢が長くなり、その結果、腰や背中などを中心に身体に痛みが生じたり、姿勢がずれてしまう傾向があります。
その時に強い味方になるのが、車椅子に使うクッションです。
しかし、そのクッション、何でも良いと思われていませんか?
クッションは、さまざまな効果が期待される一方、使い方を間違えると、逆にクッションを使う利用者の苦痛につながるおそれがあります。
こちらの記事では、車椅子を長時間使う方に最適なクッションの選び方についてご説明します。
ぜひ、こちらの記事で車椅子生活を楽に過ごせるように、参考にしてください。
車椅子にクッションを使うメリット
車椅子にクッションを使うメリットは
主に、次のような効果が挙げられます。
- 身体が前にズレていくのを防止する
- 姿勢が良くなる
- 移乗がしやすくなる
身体が前にズレていくのを防止する
車椅子で過ごされている方は、座っているだけでもかなりの負担が身体にかかってしまいます。
実際には30分以上座り姿勢が続くと、身体の不調につながるとも言われており、デスクワークが多い方でも長時間の座り姿勢は、骨盤のズレやストレートネックなどの症状が現れ、痛みなどつらさを訴えています。
同様に、車椅子での生活が長くなると姿勢が崩れてしまい、このズレが原因で毎日がつらい症状と背中合わせになります。そして、さらに悪化すると、気持ちの面でも影響は大きくなり、総合的に身体と心の不調を繰り返してしまいます。
そこで、座り姿勢が長く続く車椅子生活の方には、身体が楽な姿勢を保つために「骨盤を立たせる」必要があります。
骨盤を立たせるとは、骨盤が正しい位置にあることを意味します。
また、骨盤を立たせた状態とは、座っている時に骨盤の左右の角度が平行かつ、椅子に対して垂直ポジションにあり、周りから見ると背筋が真っ直ぐで、猫背でも反り腰でもない姿勢になります。
そして同時に「お腹に力が入る」ことも重要になります。
しかし、座り姿勢が多い車椅子生活では、身体の自由がきかないだけでも筋肉を鍛えることが難しくなります。
その上、身体のコアな筋肉であるお腹に意識を維持して使うことはさらに困難になり、加えて呼吸も安定しなくなるため、次第に身体が前にズレていってしまいます。
その結果、身体を支える支点が腰になり、腰への負担が続くと、腰痛など身体の不調の原因になり、座り姿勢自体もつらくなっていきます。
このようなことを防ぐためにも、車椅子にはクッションが必要になります。
姿勢が良くなる
クッションを使用することで姿勢が矯正されると骨盤が立ち、支点をお腹に移すことで、さらに姿勢が良くなります。
そうすると、お腹に力が入りやすくなり、呼吸も安定する相乗効果が生まれます。
呼吸が安定することは、身体にとって最も大切なポイントです。
お腹を使った呼吸ができなくなると、肩で呼吸をしてしまいます。
そして、常に肩に力が入った状態におちいると、身体の緊張が続いて呼吸が安定しなくなり、身体の負担が大きくなってしまいます。
高齢者の車椅子の方が常に肩に力が入っていることが多いのも、呼吸の不安定と深い関係があると言えます。
そのため、クッションを使用することで骨盤が立ち、お腹を支点にして姿勢が良くなると、今度は足の裏全体をしっかり地面に着くことができるようになります。
足の裏を地面に着ける習慣は、全身を使って重力を利用することになり、身体の筋肉をバランス良く使うためにも非常に大切な動作で、心身に良好な影響を与えます。
移乗がしやすくなる
介助者が、車椅子を利用されている方を車椅子からベッドや椅子に移乗する場合に苦労されたご経験はありませんか?
もし、当てはまることがありましたら、
その原因の一つに車椅子に乗った状態で、
介助される方の上半身の前傾(ぜんけい)動作が難しいことが考えられます。
いわゆる前屈み動作とも言えますが、この前屈み姿勢は、お腹に力が入った状態や足がしっかり地面に着いていることが前提になります。
しかし、車椅子では通常座っている姿勢になるため、背もたれに常に背中がついていて、不要な力が入っている状態が長いため、ベッドや椅子に移る際の動作では、そこからさらに余分な力が入ってしまうことが多いのです。
まさしく、このときに呼吸が浅くなっていることも想像できます。
そこで、車椅子にクッションを当てて骨盤を立てて、その上、お腹を中心に動かすことにより、股関節からの前屈み動作が楽になります。
次に、良く使われる車椅子のクッションを使う際の注意点について挙げていきます。
- ドーナツ型など、お尻が穴にはまるクッションは大変便利ですが、しっかりはまっていると安定しますが、少しでもズレてしまうと、逆に腰を痛めたりする場合があるため座り位置の注意が必要です。
- 滑り止めのクッションは、ズレ防止などにも効果が期待できますが、万が一、前に滑ってしまった際に、座り直しがしにくくなるので、せっかく移乗しやすいクッションでも、逆にお尻を動かしにくくなるため、注意が必要です。
上記の対策としては、最初の座り位置、座り姿勢での利用者の表情、さらには身体全体のバランスを常に確認する必要があります。
車椅子用クッションを選ぶポイント
次に、車椅子用クッションを選ぶ際のポイントをご説明します。
一番大切なことは、一人ひとりに合わせた
クッションの心地良さを重視していきましょう。
高すぎず低すぎず、柔らかすぎず硬すぎず
クッションはあくまで補助のためになります。
特に、背の低い方に高すぎるクッションを使用するのは、お尻や腰に負担がかかるため、長い時間の利用に適していません。
また低すぎるのも、クッションの役割としては物足りなく感じてしまいます。
使用感で言うと、柔らかすぎるのもお尻が沈んでしまうために骨盤が安定しません。
逆に硬すぎるクッションは吸収力が弱くなり、本来の役割も果たせない上、お尻も心地良くないです。
あくまでクッションは、適度にお尻がおさまる高さと硬さが理想になります。
利用者の身体の状態を優先する
すべては、利用者が楽に座れるためのクッションが一番大切で、利用者が感じる肌触りやリラックス効果なども重要です。
利用者が今まで使っているクッションや生地は、触れているだけでも心が落ち着くため、生地選びも今まで愛用してきた生地を確認してみるのも良いでしょう。
また、クッションは左右均等である必要はありません。
骨盤のズレがある場合、左右が均等に座面に当たっていない可能性があります。
その場合、利用者にクッションを使用した際の感覚を観察して、気分を聞きながら工夫すると良いでしょう。
例えば、お尻の片側だけにタオルを差し込むだけでも効果が出る場合があります。
また、お尻がクッションを敷いた際に、背中を背もたれにもたれたい心情が働くため、骨盤をたたせるには、深く座る姿勢に入る状態が骨盤を安定させるためにも良いでしょう。
まとめ
今回、車椅子用のクッション選びについて
さまざまな注意点やおすすめポイントを挙げながらご説明しました。
車椅子用のクッションには使用に応じて個人差があり、
「これが絶対良い」と言いきれるものはありません。
そのため、利用者の座る際の表情や感想など観察しながら工夫して選ぶ必要があります。
再度、次のポイントを確認しながら、注意して選んでみましょう。
- クッションをしてみて骨盤が立たない
- すぐに前にズレる
- 腰に違和感がある
- 呼吸が安定しない
以上の場合は、明らかにクッションの位置や高さや硬さ、あるいは大きさが合っていない可能性が考えられます。
その場合は、もう一度今回の記事を参考に、クッション選びを見直してみてください。
クッションが利用者の身体に合ってくると、利用者の座り姿勢が落ち着いてきて、呼吸が深くなり、その結果、介助される方もする方も楽になります。
介助される方が、不自由な車椅子生活を少しでも快適生活に感じられるように、またさらには、介助する方のワークサイクルの安定につながっていくように、最適クッション選びを工夫することはとても大切ですので、ぜひ参考にしてみてください。