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老人ホームを探すと決めたら-入居初日の風景

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いざ!入居初日の風景

 

さて、前回までにたくさんの中から希望のホームが定まってきました。

今回はちょっと角度を変えて、私がこれまで見聞きしてきた入居の様子をお話ししたいと思います。

特にご本人にとって入居は一大事です。ご本人が入居に積極的、または納得の上での引っ越しであればそんなに問題は起こらないのですが、そうではないケースが多いのも実情。

入居し、ホームでの生活に慣れるまで(理由は何であれホームでの生活を受け入れるまで)はご本人、ご家族、ホーム側で三つ巴の大騒ぎになることも少なくありません。

入居を拒否している、または入居ということが理解できない方がどのようにホームに連れられてくるかと言えば、

・「ちょっと付き合って」「どういうところか見学だけでも行って来よう」と軽いノリで連れてくる。

・「新しいデイサービスみたいなところがあるからちょっと一緒に見に行こうか」と連れてくる。

・「お父さん(お母さん)が具合が悪くて入院しなきゃいけないから、落ち着くまでここにいて」と連れてくる。

中でも私がインパクトが強かったのは、奥さんが入居しているのでちょくちょく面会に来ているだんなさんについて、ご家族の希望で秘密裏に入居手続きを進められた末、ある日突然「マンションの隣の部屋に強盗が入った。危険だからお父さんもここにいて」とホームから出してもらえなくなった、という方もおりました。

入院していた場合や老健に入っていた場合は「転院」

「リハビリ」「静養」「ショートステイ」…

実に様々な口実で最初の一歩を踏みいれます。

このように最初の導入をされる方はほとんどの場合認知症。

しかし、全く何も分からないというわけではないので(全く何も分からないのであればこのような口実は不要ですから)、帰りたいご本人と入居させたいご家族の熾烈な攻防がホーム側を交えてくり広げられることになります。

あの手この手でホームに足を踏み入れるご本人を紹介しました。

今回はその方々がその後どんな行動に出るのかをお話しします。

このように連れてこられた場合、大抵の方はご家族の姿が見えなくなると「帰ります」と言います。当然ですね。

ここからがご本人とホームの攻防です。

認知症で「出口を認識する」ということが正しくできない方も、それはそれで色々あります。

多くの場合ホーム内を歩き回り、ドアとみれば片っ端から開けて入ります。

大抵それは他の入居者さんのお部屋なものですからまあ苦情の嵐です。

あとはフロアにいるスタッフにずっとついて回って離さないということもありますが、この場合はまだ強硬に出ようとしないだけ何とかなります。

しかし、大変なのは記憶や理解力がある程度しっかりしていて事務所やスタッフルームになぜ帰れないのかと抗議にやってくる場合です。

ある程度、というところがミソです。

一度納得しても何度でもやってきます。

「今日は泊まりますと娘さんから承っています」「料金もいただいてしまってもう食事も用意してるんです」「もう暗いので明日帰りましょうか」「ご家族の方がお迎えに見えるまで待ちましょう」「やだ、今日は泊まってくれるって言ったじゃないですか~」等々、あらゆる言葉や言い訳を尽くして引き留めにかかります。

それで聞いてくださる方はいいのですが、まあ そうはいかない方も当然たくさんおります。

「私はそんな話は聞いてません」「俺の事なんだから子どもは関係ない」「これから用事があるんだ」「私が家にいなかったらヘルパーさんが心配する」などと納得の帰宅理由を次々と並べます。

出られるしくみになっているホームでは出て行ってしまいますし(以前勤めていた老健ではそうでした。

出た先で事故があってはいけないのでそのような方は入所をお断りしていました。)そうでなければ出口の前で怒鳴る、叫ぶ、職員に詰め寄る。当然ながら必死です。

中にはガラスを割ろうとしたり職員に手が出たり、来客でドアが開いた瞬間に走り出てしまう方もいました。

その方は外の電信柱にしがみつき、施設長と1時間格闘した末やむなく人海戦術で抱え戻されました。

私は今までにいくつかの有料老人ホームに勤めていますが、大抵どの施設にも入り口付近に張り込んでドアが開く瞬間を虎視眈々と狙っている人がいるものです。

ご本人がどうしても外に出ると興奮し、怒鳴ったりするときには施設側からご家族に連絡が行きます。

大抵ご家族と電話で話してもらうとその場は何とかなるのですが、その後も同じようなやり取りが繰り返されます。

施設側もご家族と結託して色々と考え、なんとか馴染んでもらえるように対策を練るのですが、落ち着くまで1~数ヶ月くらいかかる方もいますし、ご本人からご家族へ猛然と抗議し、最終的に入居を見合わせるケースもあります。

私たちも仕事ですし、入居を希望しているご家族の経緯も聞いていますのでなるべく入居してもらえるように動くのですが、最終的にそれを覆し、意気揚々と家に帰っていく姿を見るとちょっと嬉しくなったりも、、、します。

認知症というハンデを抱えながらも家族や他人の意向を覆して自分のアイデンティティを貫いた姿はかっこいい。

ご家族の手前顔には出せないけれど、少しだけ誇らしく思えてしまうのでした。

ご家族主導で入居に至った事例をご紹介しました。

今回はご本人の希望で、または納得の上で入居に至ったケースをご紹介しましょう。

あるとき、陽気なマダムが入居してきました。その時私はケアスタッフだったので詳しい経緯は分かりませんが、お昼のドラマに出てきそうなマダムな格好をしてしゃなりしゃなりと娘さんを伴い、興味津々といった風体でやってきました。

娘様が入居の手続きのために席を外している間、たまたま私がコーヒーを持って行ったのです。

スティックシュガーとミルクを添えて、ソーサーに乗ったカップをお出しすると、目をくりっとさせ「うわあ、ありがとう!」

親指と人差し指でマルを作り、
「これはいいの? ンMoney」。

すっげーいい発音でした。
入居一発目でこれほどのユニークさを見せつけた人はいまだかつて一人もおりません。

この圧倒的な個性と味。これだから介護業界は辞められません。

ちょっとおちゃらけてしまいました。納得の上での入居のご紹介でしたね。ここからはマジメにお送りいたします。

旦那さんに先立たれ、子供もおらず親戚も遠い方が、自らの意思でホームを探し、任意後見の制度を利用して入居された方がいました。

70代前半と年齢も若く、介護度もつかないうちからの入居でしたが、はたから見ていると共用のパソコンでネットゲームを楽しんだり気に入ったスタッフをからかったり、まあまあ楽しくやっているように見えていました。

しかし、やはりスタッフと頻繁に雑談で話し込むわけにもいかず「ご飯のメニューにも飽きたし、入居はちょっと早すぎたかな?」と少し寂しそうでした。

「顔見知りもできるし家事が面倒だから入っちゃったけど、介護施設って職員の入れ替わりが激しくてなかなか顔見知りもできないわね」「ま、お友達もできたし買い物も外出も気ままにしてるからいいんだけどね」とちょっと複雑な笑顔でした。

富山からはるばる東京の有料老人ホームに入居された方もいます。

その方は地元の人気者で、若い頃は近隣の農家のリーダー的な存在だったそうですが、やはり奥様に先立たれ一人になったのをきっかけに、「こどもの示した道を歩く」ことを決めたそうです。

自然いっぱいの農村で悠々と暮らしていたところから東京のホームに来て、当初は引きこもってしまったのですが今はたまにはリビングに出てコーヒーを飲んでいます。

近くなった分娘さんやお孫さんに会えることも増えました。

そのほかにも、入居を決意するきっかけは様々です。

「こどもが心配するから」
「一人暮らしはさびしいから」
「家事するのがめんどくさいから」
「持病があるから、何かあった時のために」等々。

共通するのは、それまでの生活にはあった何かを置いてきたこと、新しい何かを手に入れたこと。

そして何より、どんな経緯があったにせよ、そこで暮らすことを決断したことです。

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